また、大学入試センターは例題集の内容について、国語の分科会長に照会した結果を、こう発表した。

「作成途中であった第1回大学入学共通テストの記述式問題の内容を類推できるような情報は記載されていないことを確認」

「国語の記述式問題は見送られ、マーク式問題への影響も含めて、受験者が当該『例題集』を利用したことによって、特別に有利になるような情報はない」

 とはいえ、昨年12月に国語の記述式問題が見送られなかったら、問題作成委員が関与したかもしれない例題集を手にする受験生と、そうでない受験生が出たことになる。

 この例題集の噂を1カ月ほど前に耳にしていたという、東京大学の阿部公彦教授は言う。

「入試の問題作成者が、対策の本を出すなんて絶対あってはいけない。共通テストの関係者は、感覚が麻痺(まひ)しているのです。導入見送りとなった英語の民間試験でも、民間事業者が対策本を出すことの問題性をずっと指摘してきましたが、文部科学省は『問題ない』としてきました」

 産経新聞が取材で大学入試センターに指摘した例題集は、『新時代の大学入試 国語記述式問題への対応―10の問題例とその解説』(教育出版)だと文部科学省は明らかにしている。産新聞の報道が出るや、ネット書店では軒並み品切れとなり、古本に定価の2倍以上のプレミアがついた。17日の午後にはアマゾンの「高校現代文教科書・参考書」カテゴリーの「ベストセラー1位」になった。

 実際に例題集を手に取ると、「受験生に有利になるような情報はない」という大学入試センターの説明に疑問符がついた。共通テストで特徴的な「実用的な文章」について、試行調査(プレテスト)も事例に挙げ、解説が書かれている。もし作問の委員が書いたのだとしたら、どうなのか。例題も複数掲載されている。記述式問題は見送られたが、「実用的な文章」は大学入試センターが示している共通テストの問題作成方針に残っている。

 さらに驚いたのは、例題集の作成に携わった執筆者の顔ぶれだ。執筆者8人のうち5人が、2022年度から施行予定の新学習指導要領の解説書に名を連ねている。

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