かつてベトナム戦争時に「トンキン湾事件」(北ベトナム魚雷艇が米駆逐艦を攻撃したと発表された)の報告に虚偽があることを示す「ペンタゴン・ペーパーズ」が暴露したのは、米国が本格的にベトナム戦争の泥沼に入る結果となった米海軍の虚偽報告だった。それに比べると「アフガニスタン・ペーパーズ」で明らかになったのは失敗の糊塗で、悪質性はやや低いとも言えるが、米国民にウソをついていたことは同じだ。戦費は約1兆ドルと言われる。

 実は、我々日本人も「アフガニスタン・ペーパーズ」が明らかにした欺瞞(ぎまん)の被害者だ。

 アフガニスタン戦争で日本は01年から10年まで給油艦と護衛艦を派遣し、米軍艦などに705回、46万キロリットルの給油をした。また、アフガニスタンの警察官が7万2千人から15万7千人に急増された際にはその給料の約半分を日本が負担した。現在、警察官の実員は11万8千人に減ったが、それでも給料の約30%は日本が出している。

 01年以後、日本のアフガニスタンへの経済援助は今年度までで66億ドル(約7260億円)に達している。治安回復や復興支援が進んでいるように思わせた米国政府の情報操作による最大の被害者は米国の納税者だが、日本もそれを信じていたのだ。

 米国の情報操作や状況判断の誤りはアフガニスタンだけではない。イラク、シリアと合わせ米国は「3連敗」と言える状況だ。

 03年には「イラクが大量破壊兵器を保有している」として侵攻、占領したが何も見つからず、追放された旧サダム・フセイン派のゲリラ攻撃が頻発。シーア派とスンニ派の内戦となってイラクは大混乱した。米軍は11年に全員が撤退、15年に「イスラム国」討伐に約5千人を再派遣したが、今また撤退を迫られている。

 シリアではアサド政権打倒を目指し、反政府派のイスラム過激派を支援、11年から内戦となったが、シリア政府軍の主力部隊は政府に忠誠を保ち、政府側の民兵約10万人が生まれて活躍した。現在反政府勢力はシリア北西部の一角に追い詰められ、アサド政権の勝利、すなわち米国の敗北は確定的だ。

 3連敗に加え、「アフガニスタン・ペーパーズ」で情報操作を暴露された米国はイランと戦争するどころではないのは当然だ。イランが革命防衛隊の先鋒「コッズ部隊」の司令官ソレイマニ少将殺害の報復として、イラク内の米軍駐屯地をミサイル攻撃しても、トランプ大統領は反撃しなかった。苦い経験が少しは役立ったようだ。(軍事ジャーナリスト・田岡俊次)

AERA 2020年2月10日号より抜粋