その後しばらく感染者は40人程度で推移し、当時、武漢市当局は「1月3日以降は新たな感染者は確認されていない」などと説明してきた。

 ところが、18日になって新たに4人、19日になってさらに17人の感染者が確認されたことを公表。20日になると、ついに中国政府の専門家グループ長は、ヒトからヒトへの感染が認められると明らかにした。習近平(シーチンピン)国家主席が「断固として蔓延を抑え込め」とする指示を出したのもこの日。それ以降、爆発的に感染者が増えることになる。

 中国問題グローバル研究所の遠藤誉所長が注目したのは、現地であった会議との兼ね合いだ。同研究所では、専門の研究員を抱えて、中国に関する調査研究や政策提言を行っている。

 中国には「両会」と言われる重要な会議がある。3月にある全国人民代表大会(全人代)と、ともに開かれる全国政治協商会議の二つが「全国両会」と言われ、その前に地方レベルの両会がある。今年は湖北省の両会が春節前の1月12~17日の日程で開かれていた。

 この期間に感染情報はほとんど更新されていない。沈静化すればそのまま中央に情報が上がらなかった可能性もあるが、そうはならなかった。地方の両会を終えた直後に事態は動いた。

 遠藤所長は「それほど大変な状況ではないと偽装工作をしたのです」とまで言う。

 中国は情報統制をめぐり、SARSの際も世界中から非難を浴びた経緯がある。当時、中国国内ではちょうど江沢民(チアンツォーミン)氏から胡錦濤(フーチンタオ)氏に国家主席が代わるタイミングで、感染が拡大する中での実態隠しが問題視された。中国内政に詳しい東北文化学園大学の王元(おうげん)教授によると、それを機に国内で防疫のシステムが構築されたというが、今回の武漢市当局の対応では不審に思う点もあったという。

 王教授は、12月の段階では研究や分析の面での対応は問題なかったと感じているが、やはり情報の空白期間を感じていた。

「何日間も感染者の人数の発表がなかったので、このあたりの対応が非常に不可解でした。私も内陸の出身ですが、中国内陸の官僚は政治至上で防疫意識は極めて低いというのが私の実感です。可能性として、隠蔽を疑わざるを得ません」

(編集部・小田健司)

AERA 2020年2月10日号より抜粋