キーワードは「権限委譲」だ。

「育休を通じて、『仕事の大半はリモートで完結する』と気づけたのは大きな収穫でした。以来、社長である僕が会社に張り付いてなくても、各部門のリーダーの裁量で業務が回せる体制づくりを進めています。自走する組織は、より大きな価値を生む会社につながるはず」(同)

 もう一つのキーワードは「柔軟性」。育休といっても、100%子育てに没頭するのではなく、「時々仕事もできる」くらい柔軟なほうが、子育てに参加する男性は増えるのではないかと古俣さんは感じている。

 加えて、「大事な視点を忘れてほしくない」と主張するのは、オーダーメイドウェディングや法人向けイベントコンサルティングを手がけるCRAZY社長の森山和彦さん(37)だ。

「政治家や企業経営者が育休を取ると注目され、その是非が問われること自体に、違和感があります。一人の父親として、一人の人間として、わが子が生まれたばかりの大事な時期を一緒に過ごし、妻を支えたいと思うのは当然のこと。『新しい命の誕生をゆっくり腰を据えて、楽しみたい』という欲求があれば、それが尊重される社会でありたい。子育ては“べき論”で語られるものではないと思います」

 森山さんは、3年前に第1子となる長女が生まれた時に、1カ月間の育休を取得。妻が出産を希望した広島の助産院の近くにウィークリーマンションを借り、夫婦で子育てに集中した。産前産後の妻のサポートと家事全般、授乳以外の育児をひと通り経験したことは、「夫婦にとっても大切な時間であり、世の中のさまざまな人の暮らしに向ける視野を広げられた」。結果として、新たな事業のヒントにもつながっているという。

 拙著『気鋭のリーダー10人に学ぶ 新しい子育て』では、ほかにもヤッホーブルーイング代表の井手直行さん(52)、「オフィスおかん」などを展開するOKANのCEO、沢木恵太さん(34)などが育休体験を語る。育休を経験したトップが共通して口にするのは、「体験に勝る学びなし」だ。

 彼らは、育休を通じた“自己変革”を心から楽しんでいる。(ライター・宮本恵理子)

AERA 2020年2月3日号より抜粋