「インフルエンザには抗ウイルス薬」がすっかり一般的になった。だが、医師によると、「健康な人ならインフルエンザに感染しても、抗ウイルス薬は不要」だという(撮影/写真部・掛祥葉子)
「インフルエンザには抗ウイルス薬」がすっかり一般的になった。だが、医師によると、「健康な人ならインフルエンザに感染しても、抗ウイルス薬は不要」だという(撮影/写真部・掛祥葉子)

 インフルエンザにはタミフルなど抗インフルエンザ薬を処方するのが一般的になった。だが、新薬ゾフルーザには、耐性ウイルスが発生しやすいという問題もある。AERA 2020年1月20日号から。

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 インフルエンザの流行が広がっている。都内では昨年12月第1週の患者報告数が「流行注意報基準」を超えた。

 今シーズン、特に関心を集めているのは、塩野義製薬(本社・大阪市)が2018年3月に発売を開始した治療薬「ゾフルーザ」だ。従来の抗インフルエンザ薬とはまったく違った作用機序の薬剤だが、その「耐性ウイルス」が注目を浴びている。昨季は19年3月期の売り上げが263億円に達した。インフルエンザ患者の4割にのぼる約427万人にゾフルーザが使われたと推定される。

 先発医薬品では、飲み薬のタミフル、吸入薬のリレンザ、イナビル、点滴薬のラピアクタなど、いずれも「ノイラミニダーゼ阻害薬」と呼ばれるものが主なインフルエンザ治療薬として使われてきた。細胞内で増殖したウイルスが細胞外に広がるのを抑えるタイプの薬だ。これに対してゾフルーザは、ウイルスの増殖を直接抑える、これまでになかったタイプの薬だ。

 そのゾフルーザ、本格的なインフルエンザの流行期としては2シーズン目に入ったばかりなのに、早くも逆風が吹いている。耐性ウイルスの出現をめぐって、現場の医師らによる評価が揺らぐ状況に陥っているからだ。

 昨年11月25日、イギリスの科学雑誌「Nature Microbiology」のオンライン速報版で、ある研究結果が発表された。東京大学医科学研究所の河岡義裕教授らによる報告だ。東大のホームページで紹介されている日本語による論文のタイトルは、「患者から分離されたゾフルーザ耐性インフルエンザウイルスの特性を解明」と名付けられている。こんな記述がある。

「ゾフルーザを処方されたA型インフルエンザ患者からゾフルーザ耐性ウイルスを検出。さらに、未投与のA型インフルエンザ患者からも検出」

「ゾフルーザ耐性ウイルスはゾフルーザ感受性ウイルスと同等の病原性と増殖性を持ち、効率よく空気伝播する」

 特に、ゾフルーザを服用した12歳未満のA型インフルエンザ患者で、高い頻度で現れたことが明らかになったとされており、耐性ウイルスが人から人にうつる危険性を指摘している。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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