「特に重要なのは貴族のエチケット。撮影には常にエチケットのプロが立ち会った。敬意を示すあいさつはどうやるか、王妃が立ち上がるならほぼ同時に立たなければならないとか、細部まで正確でなければいけない」

 物語で重要なのは、モードの貴族の妻としての私生活の苦悩と秘密がひもとかれるあたり。

「当時似たような例は多かったと思う。文学作品の中にたくさん出てくるから。ただこの話題を、あえて大作映画に織り込んだのは勇敢だと思う。華やかな貴族の生活を賛美するだけの映画も作れたはずだけど、メアリー王妃を含め、多数の女性が抱えるさまざまな問題も描く。映画全体がそれで展開していくのはジュリアンの意図だと思う」

 と、脚本家ジュリアン・フェローズを評価する。

「ジュリアンは、ドラマの要素を織り込みつつ歴史を語ることに長けている。ドキュメンタリーではなく、面白いファミリードラマに仕上げるあたりが最高。メロドラマ、歴史ドラマ、いろんな要素が含まれたリッチな内容です」

(ライター・高野裕子)

AERA 2019年12月30日-2020年1月6日号より抜粋