その先はどうすればいいのか。野波さんの場合、いろいろ考えた末に別居した。当初は家族がバラバラになることに罪悪感を覚えていたが、「自分軸」「他人軸」という言葉で整理してみた。夫は他人の視点や感情に振り回されず、自分の快・不快を基準に行動する「自分軸」の人。野波さんは他者の気持ちを尊重し、他者からの評価を気にかける「他人軸」が強かった。

「夫は変えられないけど、私はもう少し『自分軸』を強めようと。夫婦だからこうあるべきとか、両親がそろってないとダメだとか、そういうものを一旦ゼロにしました。すると夫のことも俯瞰(ふかん)して見られるようになって、昔好きになった時のことを思い出しました。結婚を後悔する必要はないと思えたら、気持ちがラクになりました」

 カサンドラからの脱却を支援するプログラムも進化している。カサンドラ経験者のSORAさんが2015年に立ち上げた「アスペルガー・アラウンド」には、現在3段階のプログラムがある。第1段階は、仲間とつながる。第2段階は、どういう特性がどう作用して、理解不能な行動に結びついたのか、丁寧に読み解いていく。そうすることで、自分が悪いのではないという確信が得られるという。

「その上で、相手を理解してあげるのではなく、自分が変わりましょうと。自分は悪くないのに、自分が変わらなきゃいけないなんて納得できないという方も多いのですが、相手のためではなく、自分がラクになるために変わるんです」(SORAさん)

 自分と向き合う気力がわいたら第3段階で、夫も変えることを目指す。

「とてもつらい道ですが、仲間でつながっていこうと」(同)

野波さん、滝口さん、SORAさんがいま、危機感を持っていることが二つある。一つは夫婦問題と発達障害の両方がわかる専門家が圧倒的に不足していること。もう一つは首都圏以外ではまだカサンドラについての認識が低いことだ。当事者が講演会に参加することすらはばかられるような地方も多いという。

 アスペルガーの特性を持つ人は100人に1人とも言われる。カサンドラを苦しめる二つ目の孤独=周囲の無理解をなくすには、多くの人がこの問題をひとごとにしないことが必要だ。(編集部・石臥薫子)

AERA 2019年12月23日号より抜粋