最終巻となるコミックス65巻のカバーイラスト。右手に麻痺が残るなか、尼子さんは、定規を駆使して下絵を描いた(撮影/写真部・掛祥葉子)
最終巻となるコミックス65巻のカバーイラスト。右手に麻痺が残るなか、尼子さんは、定規を駆使して下絵を描いた(撮影/写真部・掛祥葉子)
六年生のアニメキャラ。上段右から時計回りに、善法寺伊作、中在家長次、潮江文次郎、食満留三郎、立花仙蔵、中央が七松小平太(c)尼子騒兵衛/NHK・NEP
六年生のアニメキャラ。上段右から時計回りに、善法寺伊作、中在家長次、潮江文次郎、食満留三郎、立花仙蔵、中央が七松小平太(c)尼子騒兵衛/NHK・NEP

 1986年から「朝日小学生新聞」に掲載されてきた歴史ギャグ漫画「落第忍者乱太郎」が最終巻を迎えた。アニメ、ミュージカル、映画へと広がった作品の根底にあるのは、シンプルでまっすぐな人間関係だという。AERA 2019年12月9日号では同作品の連載終了に対するファンや関係者の思いを紹介する。

【イラスト】若い女性に人気だった六年生のキャラクターたち

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「連載が終了すると聞いたときは、ショックでした」

 そう語るのは、小学2年生のとき、朝日小学生新聞で始まった「落第忍者乱太郎」(落・乱)第1話をリアルタイムで読んで以来のファンという佐門宏昭さん(41)だ。1999年には「グルグルだ乱★」というファンサイトを開設して「落・乱」情報を発信、現在もコミックスや関連書籍に囲まれている。

 物語の舞台は室町・戦国時代。一流忍者を目指して「忍術学園」に入学した忍者のたまご「忍たま」たちのドタバタを描く歴史ギャグ漫画だ。93年にはNHKが「忍たま乱太郎」としてアニメ化、現在も放送が続いている。2011年には実写映画にもなり、コミックスの累計発行部数は930万部を超えた。

「懐の深い作品です。ギャグを楽しむもよし、個性的なキャラクターに惹かれるもよし、忍者や忍術の知識を得るもよし、当時の文化・風習に触れるもよし。多彩な楽しみ方ができるからこそ、多くの人に愛されるのだと思います」(佐門さん)

 今年1月、作者の尼子騒兵衛(あまこそうべえ)さんが脳梗塞で倒れた。7月に退院したが、今も右半身に麻痺が残る。連載継続は難しいと尼子さん自身が判断、33年の連載に幕を閉じることが決まった。

 3月に朝日小学生新聞の紙面で尼子さんの体調不良を伝えたところ、編集部にはたくさんのメッセージが届いた。神奈川県の小学校からは先生や生徒、58人分の寄せ書きが届き、「乱太郎が大すきなみんながまっています!」などのメッセージが書かれていたという。

 約10年間、朝日小学生新聞で「落・乱」を担当した平松利津子さん(60)はこう語る。

「読者はみんな、人を思いやる気持ちを持っている。コミックス4巻で乱太郎が『友情ってありがたいねー』とつぶやく場面があるのですが、この世界観が子どもたちに届いているのだと思います」

 忍術学園にはいじめがない。おっちょこちょいのしんべヱはクラスの足を引っ張ることもあるが、本気で責められたりバカにされたりしない。太めの体形は「ぽっちゃり」などと表現される。子どもの頃、背が小さくて「チビ」とからかわれた経験を持つ尼子さんが、「人をバカにしたり傷つけたりする言葉は、漫画に使わない」と決めたからだ。

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