乱太郎たちは勉強が苦手で、追試や補習ばかり受けている。

「知力、体力のたりん分は、根性でカバーせよ!!」とは乱太郎が忍術学園に入学したとき、学園長先生が言ったセリフだ。その言葉通り、教室では失敗ばかりの生徒たちは、ガッツと根性、そして仲間と助け合うことで、実戦で思わぬ力を発揮する。

 アニメ放送スタート時から作品にかかわってきた、亜細亜堂の河内(かわち)日出夫監督(72)はこう語る。

「『落・乱』は古典的なドタバタギャグ漫画。それを原作とする『忍たま』もまた、オーソドックスでありながら、今の時代においては逆に珍しい存在となっているのだと思います」

「落・乱」には350以上のキャラクターが登場するが、関係性はシンプルだ。クラスメートはみんな仲良し、全員友達。ライバル同士は正々堂々と勝負する。敵はわかりやすく“悪役”として登場する。尼子さんは今の子どもたちが生きる複雑な社会を理解しつつも、「陰湿なものは漫画に持ち込みたくない」という思いで、33年間変わらぬ世界観を貫いてきた。

 一方で変化もあった。連載開始から20年以上たった2006年ごろから、若い女性ファンが急増した。

 きっかけは上級生の活躍だ。たとえば22~26巻(97~99年発行)にかけて六年生の6人が登場、活躍場面が徐々に増えていった。優しいけど不運な善法寺伊作(ぜんほうじいさく)、武闘派の食満留三郎(けまとめさぶろう)、クールな立花仙蔵(たちばなせんぞう)……。見た目も性格も異なるキャラクターは、はからずもあらゆる女性の好みをカバーした。他学年や先生など、さまざまなキャラクターにファンがついた。「落・乱」には恋愛要素がないからこそ、ファンは自由に想像力を働かせることができるのだ。

 ちょうどこのころ、一部のネットで使われていた「腐女子」という言葉が一般にも広まった。キャラクターの多くが尼崎の地名から名づけられていることから、ファンの女性が尼崎を訪れる「聖地巡礼」も起きた。

「男前を描いているつもりはなかった」という尼子さんにとって、この人気は予想外のものだったという。こうした流れのなか、10年には2.5次元ミュージカルになり、以降毎年上演が続いている。

 コミックスは完結したが、アニメは続いていく。朝日小学生新聞では、文章とイラストによる尼子さんの連載を予定しているという。前出の佐門さんはこう語る。

「『落・乱』は私という存在の一部に溶け込んでいる。それはコミックスが完結しても変わりません」

(編集部・野村美絵)

AERA 2019年12月9日号