泥谷千代子(ひじや・ちよこ)/1951年、鹿児島県生まれ。85年、埼玉県飯能市に開校した中学校・高等学校「自由の森学園」の一部門、食生活部の創立メンバーであり、リーダー的存在(撮影/写真部・小黒冴夏)
泥谷千代子(ひじや・ちよこ)/1951年、鹿児島県生まれ。85年、埼玉県飯能市に開校した中学校・高等学校「自由の森学園」の一部門、食生活部の創立メンバーであり、リーダー的存在(撮影/写真部・小黒冴夏)

「奇跡の学食」と呼ばれた自由の森学園の食生活部。そこを切り盛りする泥谷千代子さんによる『日本一の「ふつうの家ごはん」自由の森学園の学食レシピ』は、実際の学食メニューのレシピ50品目をまとめた1冊だ。著者の泥谷さんに、同著に込めた思いを聞いた。

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 2限目の授業の終わりを告げるチャイムが鳴ると同時に、食堂は黒山の人だかりになる。中休みに生徒たちがおにぎりやサンドイッチといった間食を買いに来るのだ。

「まだお昼には早いけど通学している生徒の中には、朝の6時に家を出る子もいるのでおなかが空いちゃうんです」

 間食を頬張る生徒たちに愛おしそうな視線を向けるのは、1985年の学校創立時から食生活部(学食)を切り盛りする泥谷千代子さん(68)だ。

「点数序列主義」に迎合せず、個性を育む教育を目指して設立された中高一貫校の自由の森学園。制服もなければ校則もなく、ペーパーテストもない。そんな独自の教育に惹かれ、全国から700人を超える生徒が埼玉県の山里で学んでいる。

 育ち盛りの生徒たちの食を支えているのが泥谷さん率いる食生活部だ。学園設立と同時の34年前、父母の「安全でおいしいものを我が子に食べさせたい」という思いから運営はスタートした。無農薬栽培の米や野菜にこだわり、化学調味料や保存料などの添加物は一切使用しない。梅干しもパンもジャムも麺も出汁もみんな手作り。カレーはスタッフがインドで学んできたレシピがベースとなっている。「最初はしっちゃかめっちゃか。なんとか回していけるようになったのは6年くらいたってから」と泥谷さんは笑うが、いつしか「奇跡の学食」と呼ばれるようになった。

「学校にも恵まれたし、父母たちの手助けも大きかった。なんせ沖縄から北海道までいろんな人たちがいましたから。家庭の文化って素晴らしいんですよ。保存食にしてもいろんな作り方がある。その時の知恵がベースにあります。家庭料理ってすごく豊かだし、主婦の知恵ってすごいんです」

 例えば、かぼちゃの煮物なら梅干しの種を加えることで味が引き締まり、甘さが際立つ。ポテトサラダやコロッケなら、じゃがいもを茹でるのではなく蒸すことでホクホクしたおいしさが増す。知っているのと知らないのとでは雲泥の差となるちょっとしたコツが、本書の中でも紹介されていく。

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