生後間もない女児の遺体が遺棄されたコインロッカー。新宿区歌舞伎町 (c)朝日新聞社
生後間もない女児の遺体が遺棄されたコインロッカー。新宿区歌舞伎町 (c)朝日新聞社
「住まいの貧困」は見えにくい(AERA 2019年10月28日号より)
「住まいの貧困」は見えにくい(AERA 2019年10月28日号より)

 若者を中心に生活の基盤となる居場所「家」がない「住まいの貧困(ハウジングプア)」に陥る人が増えている。若い生活困窮者の住宅支援は遅れている現状ではあるが、少しずつ広がりをみせている。だが、居場所がない若者の中には、SOSを出せない人も少なくない。AERA 2019年10月28日号に掲載された記事を紹介する。

【「住まいの貧困」は見えにくい】

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 昨年5月、東京都新宿区歌舞伎町のコインロッカーから生後間もない女児の遺体が見つかった。死体遺棄容疑で逮捕されたのは、実の母親(当時25)だった。母親は事件の1年ほど前から現場付近の漫画喫茶で生活していて、その個室で子どもを出産、赤ちゃんが声を上げたので周囲にばれると思い殺したと容疑を認めている。なぜ、臨月を迎えた25歳の妊婦が漫画喫茶で寝泊まりをし、一人きりで出産せざるを得なかったのか。

「日本の社会には、貧困や暴力にさらされ安心できる『家』をなくし、その日の居場所を絶えず探し続けて漂流する妊婦のための場所が足りません」

 と話すのは、予期せぬ妊娠に悩む女性の相談支援に取り組むNPO法人「ピッコラーレ」(東京都豊島区)の代表理事で、『漂流女子』(朝日新書)の著書もある中島かおりさんだ。

 同NPOは15年に設立され、これまで延べ1万3千件近い相談に乗ってきた。避妊の失敗、未婚での妊娠、想定外の妊娠、性被害……。年齢の内訳は10代が30%、20代が37%、30代は18%。ネットカフェや一夜限りの男性宅、公園など危険な居場所から、やっとの思いで連絡をくれるという。

 ある女性(24)は、風俗店の寮で住み込みで働いていたが、お客の子どもを妊娠すると寮を追い出され、行く場所がなくネットカフェで寝泊まりするようになった。妊娠30週を超えた時、未受診の妊婦が病院に担ぎ込まれるテレビドラマを観て、「これは私だ」と思い怖くなり、同NPOにメールをしてきた。

<ネットカフェ難民しています。もうすぐ赤ちゃんが生れると思います>

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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