メールを受け取ったスタッフが女性と一緒に区の福祉課に行くと、女性相談員が妊婦健診をしてくれる病院を予約してくれ、近くに妊産婦を支援してくれる施設があることも教えてくれた。その後、女性は妊産婦支援施設に入り、無事に病院で出産したという。

中島さんは言う。

「漫画喫茶で出産して赤ちゃんを死なせてしまった母親は、誰かに『助けて』と言う気力を奪われていたのかもしれません。長い間暴力や社会的排除を受けてきた結果、絶望や無力感の中にいて、何をしても無駄だとあきらめていたのかもしれません」

 日本にはDV防止法や児童福祉法、売春防止法など女性と子どもを守るための法律にのっとり、提供される居場所はいくつかある。しかし、妊婦を想定して用意された居場所は少ない。同NPOは来年3月を目標に、漂流する妊婦が安心できる居場所「プロジェクトホーム」を豊島区内に計画中だ。滞在するだけでなく、助産師や社会福祉士などが、利用者一人一人のニーズに合わせて協働する居場所になるという。

「彼女たちが安心して次の一歩を踏み出す準備ができる場を、地域に開かれた居場所にしていきたい。それが彼女たちの困難を可視化し、社会と共有することにつながります」(中島さん)

 一般社団法人「つくろい東京ファンド」代表理事で、立教大学大学院特任准教授(居住福祉論)も務める稲葉剛さん(50)は、住まいの貧困対策として「ハウジングファースト」を提唱する。

 これまでホームレスなど住む場所をなくした人たちへの支援は、シェルターなどで暮らしながら就労支援を受け、仕事を見つけてからアパートに移り住むという「ステップアップ方式」が主流だった。だが、集団生活になじまずドロップアウトし、再び路上に戻るという悪循環があった。ハウジングファーストは「住まいは基本的人権」という考え方のもと、最初から安定した住まいを提供した上で、医療や福祉の専門家が支えていく。1990年代初頭に米国で始まった考えで、フランスでは国策として取り組む。

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