児島をジーンズの街として世界に知らしめたのが、一度洗うことで風合いを出すワンウォッシュ加工。このデニムも一度洗ってからテフロンに漬けている。

 とはいえ、知りたいのは本当に汚れないのか。プロモーション映像だけでは信じられず、実験することにした。「好きにしてくれて大丈夫」と自信満々の山田さんの言葉をいいことに、派手にやってみる。カメラマンも妙に乗り気で、ジーンズに恨みでもあるのかと思うほどだ。

 コーヒーやしょうゆなど液体は弾かれて水滴になり、まったく染み込まない。サッと拭けば元通りだ。半固体のケチャップは拭くだけでは取れないが、水洗いするとキレイに落ちた。

 これはすごい、とやや感動しながら持ち上げると……なぜか、裏面に覚えのない青いシミがたっぷりついていた。撮影用の背景紙の染料が移ったようだ。山田さんの言葉を思い出す。

「基本的には何をかけても大丈夫ですが、染めることが目的の染料などはテフロンの隙間を通って染みつく可能性があります」

 この染みは洗濯しても落ちなかった。それでも、日常使用なら滅多なことでは汚れないだろう。山田さんは言う。

「僕らが目指すのは、諦めていた課題を日本の工場が培ってきた技術力で解決することです」

 汚れるから白ははけない。そう考えて諦めていた人はきっと大勢いる。これは、そんな人へのひとつの光明だ。(編集部・川口穣)

AERA 2019年10月7日号

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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