「そうではありません。今の50代、60代の人たちが10代、20代の頃は成長社会。その頃に価値観を培ってきた世代と、社会がほぼ成熟期に入っていた今の若い世代との間にギャップがある。つまり分断線が、かつては10代と30代の間にあったとすれば、今は30代と50代の間に移ってきている。若者と30代は衝突しないが、30代の大人と50代以上の高齢者は衝突する」(同)

 分断線は、消えたのではなく上昇した。その結果が、若い世代と高齢者の衝突の社会構造的な要因になっている、と土井さんは考察し、こう続ける。

「若者や30代の大人から見たとき、50代後半から60代以上の高齢者は、自分たちとフォーマットが違う、異なる価値観を持っているよくわからない存在なんです。だから、ぶつかる」

 実際に、「高齢者がわからない」と話す若い世代に会った。

 都内の大学に通う女性(21)は、高齢の、とくに男性に嫌な思いをさせられることが「しょっちゅうある」と言う。たまたま靴擦れを起こして駅をゆっくり歩いていると、70歳くらいの男性に「ふらふら歩いてんじゃねえよ」と杖で足を叩かれたり、電車に乗る時に強引に割り込まれたり。

「最初は悲しくて、後になってムカつくことが多いです。今では『高齢の方は周りの若い人に嫌悪感を持ち、見下してる』という結論になっています」

 この女性はもともと、老後への不安が強い。この先、自分は結婚しなかったらどうなるのか。一人でお金をためて老人ホームに入るのか、そこもいっぱいだと孤独死するのでは──。そこまで考える。そんな中、年金の話題に接したり、病院の待合室で高齢者の姿を見たりすると、モヤモヤすることもあると言う。

「周りの友達には、病気になってもお金ないから病院に行けない人もいる。高齢の方は1割負担(75歳以上)で病院に行って、そんなに重い症状でもないのに、病院の待合室でしゃべっている光景を目にすると、高齢者との間に不公平感を覚えることもあります」

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