「事件の前から、高齢者に限らず、生活保護を受給するなど社会的に弱い立場にいる人たちに対して世間の風当たりがすごく強くなってきているなと。『自己責任』『迷惑かけている人たち』みたいな声が聞こえてくるのが恐ろしいと思えたのです」(早川さん)

 現在、この作品の長編を制作中だ。準備として高齢者への取材を重ねている。PLAN75のような安楽死制度ができたら、どう思うかを尋ねると、「あった方がいい」という声が多数を占めた。「人に迷惑をかけたくない」「死ぬときは自分で選びたい」という理由からだ。

 迷惑をかけられていると感じる若い世代と、迷惑をかけたくないと思う高齢者。なぜギャップが生まれるのか。

「お互い接する機会が減ったので、双方の『顔』が見えてない。老人ホームと幼稚園を同じ敷地につくるとか、高齢者へのボランティアの時間を中高校生の必修にするとか、逆に高齢者が子どもたちを世話してあげるとか、そういう良い体験があれば、『老人死ね』とか『年寄り迷惑だ』とか言わなくなるんじゃないかと思います」(同)

 世代間憎悪を少しでも良い方向に導くには長い年月がかかるだろう。前出のマライさんも「簡単な解決の道があるとは思えない」としつつ、あえて逆説的な言い方をすれば「みんな公平に不幸になる」ならば納得される社会に行き着くのではと言い、こう悲観する。

「今の高校生たちは、『平等に普通に暮らす』を目指してると思うんです。それがあと数年たってうまく就職できないなどで、いわゆる非リア充層に入ってしまうと、目指す方向が『普通』ではなく『みんな同じような悪夢の中で生きるなら、まあそれもいいか』といった感じに変わっていく。若者も高齢者も平等に不幸になることで世代間の憎悪は消せるかもしれませんが、その先にある社会もまた、怖い世界です」

(編集部・小長光哲郎)

AERA 2019年9月23日号より抜粋

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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