たとえ、いわさきちひろの名前を知らなくても、その絵を見れば「あの人か」と思い当たる印象的な作品が多い。ただ、本書のブックカバーに使ったちひろの絵は、ひと目にそれとわかる代表的なものではない。顔の表情はなく、遠く海岸線を子どもと犬が走る絵だ。歌代さんはこう話す。

「ちひろには、海辺に家を建て、そこをアトリエにして、絵を描きたいという夢がありました。55歳で亡くならなければ、もっと伸びやかな絵を描きたかったのだと思う。こんな世界観も持っていた人だと伝えたかった」

(フリーランス記者・澤田晃宏)

■ブックファースト新宿店の渋谷孝さんのオススメの一冊

『コーヒーとボク』は、夢に向け悪戦苦闘する青年の姿を描く小説だ。ブックファースト新宿店の渋谷孝さんは、同著の魅力を次のように寄せる。

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 マンガ家・相原コージを父にもち、子どものころから父がマンガを描くところをよく見ていたボク(著者)。インクとトーンカスまみれになりながら仕事をしている父がカッコよく、自分もマンガ家になりたいと思っていた……。

 そんなボクは今、吉祥寺で小さなコーヒー屋「ライトアップコーヒー」を経営している。きっかけは美大生時代、アルバイト先のカフェで教わったラテアート。そこで出会った仲間たちとコーヒー文化を求め海外へ。しかし帰国した日本には、自分たちの思い描くようなコーヒー屋はなく、ならば「自分たちが作るしかない!」と開業。

 どこにでもいそうな一人の青年の煩悶と、「スペシャルティーコーヒーで新しいコーヒー文化をつくる」という夢の実現に向け悪戦苦闘する姿を描いた青春実録エッセーコミックです。

AERA 2019年9月23日号