危険を音で知らせる「OTOMO」。近づくにつれ、音のピッチが速くなる。段差と障害物では別の音が出るので区別できる(写真:ビチャイ教授提供
危険を音で知らせる「OTOMO」。近づくにつれ、音のピッチが速くなる。段差と障害物では別の音が出るので区別できる(写真:ビチャイ教授提供
メガネタイプのオトングラス。当初はメガネ型だったが、現在はメガネに取り付けるアタッチメントとして改良を進めている(写真:島影さん提供)
メガネタイプのオトングラス。当初はメガネ型だったが、現在はメガネに取り付けるアタッチメントとして改良を進めている(写真:島影さん提供)

 晴眼者も読める点字“ブレイルノイエ”をはじめ、視覚障害の困難を減らすための発明が相次いでいる。アイデアと「モノづくり」の技術が、多様性を認める社会への第一歩を後押しする。

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 視覚障害者の「移動」をサポートする取り組みは、ほかにもある。ものつくり大学のビチャイ・サエチャウ教授(57)は、視覚障害者が駅ホームに転落し、電車にはねられて亡くなったニュースを見て、心を痛めた。ビチャイ教授の専門は、マイコンによる情報処理と制御技術。この技術を使って、転落事故を防げないかと考えた。

 開発したのは、目の前の障害物や段差を音で教えてくれる機械「OTOMO」だ。ヘッドホン型の小型機器に付いたセンサーが障害や段差までの距離を感知し、距離があるうちはゆっくりした音で、近づくにつれピッチの速い音で教えてくれる。人混みでの動作など実用化への課題もあるが、テスト使用した当事者の期待は高い。

「発達した社会にも当事者には大きな障壁がある。それを技術で乗り越えたい」(ビチャイ教授)

 イノベーションが相次ぐ背景には、技術の進歩もあるという。

 島影圭佑さん(27)は、文字を読み上げるメガネ型のデバイスOTON GLASS(オトン グラス)を開発している。文字を画像認識してテキストに変換する文字認識技術と、テキストから音声をつくる音声合成技術を組み合わせ、メガネ型のデバイスに落とし込んだ。

“メガネ”をかけスイッチを入れると、独特の抑揚の機械音声がチラシを読み上げる。精度はほぼ完璧。雑誌のような複雑なレイアウトだと難しいが、シンプルな構成の文芸書などはスムーズに読みこなす。

「15年あたりから、個々の技術レベルが閾値を超えた気がします。文字認識も音声合成も歴史の長い既存技術ですが、それが社会に実装できるレベルに達し、サービス化されたことが大きい」(島影さん)

 開発のきっかけは、大学在学中の13年、父が失読症になったこと。オトングラスの「オトン」は「父」と「音」をかけている。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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