高村薫(たかむら・かおる)/小説家。1953年生まれ。商社に勤務後、90年に作家デビュー。『マークスの山』で直木賞、『土の記』で野間文芸賞、大佛次郎賞、毎日芸術賞を受賞(撮影/今村拓馬)
高村薫(たかむら・かおる)/小説家。1953年生まれ。商社に勤務後、90年に作家デビュー。『マークスの山』で直木賞、『土の記』で野間文芸賞、大佛次郎賞、毎日芸術賞を受賞(撮影/今村拓馬)

 小説家の高村薫さんによる『我らが少女A』は、1993年の『マークスの山』に始まり、『照柿』『レディ・ジョーカー』『太陽を曳く馬』『冷血』に続く、6作目となる刑事・合田雄一郎シリーズの最新作だ。著者の高村さんに、同著に込めた思いを聞いた。

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 合田(ごうだ)雄一郎と言えば、高村薫さん(66)が「私の分身かもしれない」とまで語る、「高村文学」には欠かせない名刑事だ。警察組織の中で生きにくさを抱えながら、自問自答を繰り返し事件に向き合う。その合田が、『冷血』以来7年ぶりに帰ってきた。57歳になり、警察大学校の刑事教養部教授として幹部候補生たちに捜査実務などの講義を行っている。

「作者も年を取るけど、彼(合田)も年を取る。書く前に、本の協力者と合田をどうしましょうと話をしていたら『警察大学校の先生がいいよ』と言われたんです。警察大学校の教授は、エリートコースです」

 物語は、12年前に合田が捜査責任者を務めながら未解決のまま終わっていた老女殺しが、事件当時、老女の周辺にいた上田朱美という女性の死から動き出す。タイトルにもなった「少女A」とは当時15歳だった朱美のこと。女手一つで朱美を育てた母親、朱美の同級生とその親たち……。一人一人と「少女A」の過去と現在が交差し、それぞれの人生も浮き彫りになっていく。すでに捜査の一線を退いた合田は合田で、閉ざされた記憶の断片を辿りながら一人の男として再び事件に向き合う。

 主役はいない。あえて言えば「土地」と高村さん。

 その「土地」とは、関東平野南西部に広がる東京の武蔵野。「はけ」と呼ばれる国分寺崖線からわき水が川に注ぎ、武蔵野の水と緑の豊かさを今も感じられる場所だ。

「その人を形づくるすべてが土地から生まれます。物語に登場する彼ら、彼女らは子どものころから武蔵野の空気を吸って、武蔵野の風景を見て、大人になって今がある。それを大前提に書いています」

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