韓国各紙は韓国政府の日韓GSOMIA破棄決定を1面トップで伝えた/8月23日 (c)朝日新聞社
韓国各紙は韓国政府の日韓GSOMIA破棄決定を1面トップで伝えた/8月23日 (c)朝日新聞社

 韓国大統領府が破棄した日韓GSOMIA。関係筋によれば、韓国内でも国防省と国家情報院は最後まで破棄に抵抗した。だが、文在寅(ムンジェイン)政権でニューリーダーの呼び声高い、曹国(チョグラ)次期法相を巡るスキャンダルが噴出。政権の支持率低下を防ぐため、支持勢力を結集しやすい反日カードとして破棄が急きょ決まったという。

 韓国軍の予備役将校らは「破棄は、自分で自分の首を絞めるようなもの」と慨嘆する。なぜ、そう言えるのか。

 複数の情報関係筋によれば、ここ1年間でも少なくとも2度にわたり、韓国は日本の情報に助けられてきた。

 最初は昨年12月、北朝鮮が東部・江原道の軍事基地で行ったテレメトリー照射実験だった。テレメトリーとは弾道ミサイルなどが飛行する際、自らの位置などを知らせるために出す電波信号のことだ。

 当時は、昨年6月のシンガポールでの米朝首脳会談後の実務協議が停滞していた時期。北朝鮮の実験は米国に対する威嚇行為とも思われた。一方、北朝鮮は過去の弾道ミサイル実験の際、事前に地上基地のレーダーの稼働や、テレメトリーの照射状態を必ず確認してきた。

「威嚇か発射の兆候か」。悩む韓国を助けたのが、自衛隊の通信所が捉えた電波情報だったという。日本側は当時、自衛艦旗(旭日=きょくじつ旗)の掲揚問題を含む日韓関係の軋轢(あつれき)から、「自ら韓国に情報を求めない」「韓国が求めてきたら最低限の情報を渡す」「情報は弾道ミサイルや核開発に関係するものに限る」といった内規をひそかに定めていた。しかし、それでも、自衛隊の提供した電波情報は、北朝鮮軍の意図を探るうえで大いに役立ったという。

 そして2度目が、北朝鮮が今年5月9日に北西部から発射した短距離弾道ミサイル「KN23」に関する情報だった。2発目が約420キロの距離を飛行したため、日本側からもミサイルの軌道などについて十分な情報収集ができたという。

 終戦直後から米駐留軍の指揮を受けた日本は、電磁波や通信を傍受する「シギント情報」能力で、韓国を大きく凌駕(りょうが)している。その事実を知るからこそ、韓国国防省や国家情報院は破棄に強く反対したとみられる。

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