そして問題はその情報源にあった。二人は「ユーチューブやインターネットの情報で判断しています」と声をそろえた。28歳の女性は「この前も日本在住の韓国人がユーチューブで、日本は実は放射能に汚染されているって言っていました。怖いから、日本にはもう行かない」と語った。

 若い人たちは公権力に縛られることは嫌う。だが、知らず知らずのうちに公権力が流す宣伝や主張の影響を受けている。放射能云々は、韓国国会議員の一部が騒いだ「放射能で汚染された日本への渡航を制限すべきだ」「東京五輪もボイコットすべきだ」という主張の影響だろう。

 不確かな情報で相手に不必要な猜疑心を持つ。同じことは、日本にも言えまいか。日本の一部の政治指導者たちが平気で、韓国に対して「無礼だ」「信用のできない国だ」と言い放っている。それが憎しみを生み対立を引き起こす。

 7月、日本の一部メディアが「韓国の輸出管理体制に疑問符がつく実態がうかがえる資料が見つかった」と報じた。資料は、韓国政府による不正輸出取り締まりの結果をまとめたものだったが、まるで、韓国が不正輸出を黙認しているかのような空気がインターネット空間を中心に一気に広がった。日本の専門家の間でも「印象操作」を危惧する声が上がった。

 貧富の格差や老後への不安などから、日本でも市民の間に漠然とした不安と不満が募っている。そのはけ口が韓国に向かっているとしたら、私たちはかつて米国で起きた黒人差別や、欧州の移民排斥運動を笑うことはできない。

 韓国政府元高官の知人はこう語った。

「理念や理想のない政治家なんて、票目当てのポピュリストでしかない。今の政治家がやるべきことは、韓日双方に日韓ワールドカップの時のような共通の良い記憶を植え付ける努力だろう」

 日韓の対立を解決できるのは、世論の代表である政治家であり、ひいては政治家を選ぶ私たちでもあるのだ。(朝日新聞編集委員・牧野愛博)

AERA 2019年9月2日号より抜粋