「モノ消費から(体験型の)コト消費になった今、モノより精神を重視するミニマリストが、写真やデータを体験として残そうとするのは、メカニズムとしては理解できる」

 さらに、デジタル・ホーディング現象が目に付くようになったのは、行き過ぎたミニマリズムの反動だという見方もある。

「実生活でどんどん捨てても、心のどこかにモノと別れる寂しさを感じることがある。その結果、写真やデータで残すことで、自分の手中に収まったという支配欲や所有欲を満たしているのです」(池内教授)

 こうしたため込みは、周囲に迷惑をかけることはまれで、社会的な問題になりづらい。ゆえに、これまで可視化されることはなかった。だが、必ずしも、影響がないわけではない。

「タブの開きすぎやアイコンを並べすぎてしまう、というのも一種のデジタル・ホーディングです。必要な情報をすぐに取り出せなければ、生産性が落ちてしまいます」(前出の重枝氏)

 先の女性のスマホのブラウザには、200個を超える大量のタブが開かれていた。生産性をとるか、自我の安定をとるか。

 デジタルごみ屋敷は、鼻が曲がりそうな悪臭もなければ、虫がわくこともないだけに、誰にも気づかれずに肥大していく。(編集部・福井しほ)

AERA 2019年9月2日号

著者プロフィールを見る
福井しほ

福井しほ

大阪生まれ、大阪育ち。

福井しほの記事一覧はこちら