イラスト・土井ラブ平
イラスト・土井ラブ平

 断捨離ブームから10年。日本人のお片付け精神は、今や海外にも飛び出した。リアルな生活はきれい。でも、クラウドは「ごみ屋敷」の人もいるようで。

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 都内の広告会社で働く女性(26)は、とにかく写真を撮るのが好きだ。撮りためた膨大な写真はクラウドサービス「グーグルフォト」にこまめにアップロード。クラウド上には水族館で撮った熱帯魚の写真が広がる。だが、よく見ると似たようなアングルの同じような魚ばかり。こんなにも必要なの?

「それは連写です。いいものも悪いものもクラウドに残しておきたいんです」

 写真だけでなく、気になったツイートもスクリーンショットで保存。2、3カ月に一度はグーグルフォトを“掃除”しているというが、それでも残る画像データは2万2千枚超。膨大な写真すべてを把握することはできず、お目当ての一枚を引っ張り出すには、撮影した日付を思い出すためにスケジュール帳を見返しているという。

 この女性のように、自分の管理できる範囲を超えてデータをため込む状態は「デジタル・ホーディング」と呼ばれている。ホーディングとは貯蔵の意。ため込み問題を研究する関西大学社会学部の池内裕美教授は、

「いわゆる“ごみ屋敷”といったモノホーダーが一般的ですが、数年前からデジタルホーダーの存在が明らかになってきました。所有することに満足してしまい、愛着もあまりない。管理しないので、検索性も低い」

 と指摘する。一般的なコレクションとは異なり、何の法則性もなく集める様は、まるで「デジタルごみ屋敷」だ。だが、それこそが、心の安定に一役買っていると言うのは、ソーシャルメディア事業を手掛ける「ガイアックス」の重枝義樹氏だ。

「思い出と結びついているため、処分する行為が自分の一部を切り捨てているように感じて、苦痛なのです。ため込むことで、気持ちを落ち着かせている面もある。一般的に、強迫的ホーディングと言います」

「愛着がない」という池内教授の指摘と矛盾するように見えるが、実はそうでもない。前出の女性は「写真を見返すことはほとんどない」ときっぱり言う。思い出という体験を写した画像は所有しても、管理自体に興味はないのだ。さらに気になったのは、女性の部屋はモノが少なく、片付いていることだ。こうした傾向が、ミニマリズムの流れと一致していると重枝氏は指摘する。

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福井しほ

福井しほ

大阪生まれ、大阪育ち。

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