コンピューターでこれほどリアルな映像を作れるとなると、フェイクニュース動画も簡単に作ることができそうだ。映像技術を極めたからこそ、これはやってはいけないと自分を律していることはあるのだろうか。

「技術の進歩は誰にも止められない。でも技術で一番大事なのは人々を結びつける力だと思う。社会のいろんな問題も技術で解決できる。そういう技術の可能性に対する感受性や責任感を持つことが大事だと思う」

 技術で映画産業が破壊されてはいけないとも力をこめる。

「今回、CG映画に関わるのが初めてだった撮影監督を起用したのも、伝統的な映画技術と最新技術を融合させたかったから。伝統の鎖を断つのは近視眼的だと僕は思う。映画の100年続いた歴史を消滅させてはいけないよ」

「ライオン・キング」では、何分も続くエンドクレジットも印象的だ。何百人ものスタッフの名前から欧州、東アジア、南アジア、中東など世界中のスタッフが参加したのだとわかる。

「気づいてくれてうれしいなあ。実写映画よりこういう映画のほうがスタッフは多いし、実は手作りなんだ。CGというとコンピューターが作ったと誤解されるけどそうじゃない。一枚の葉っぱから一本の木からすべて、光と影の仕組みを知り尽くした専門のアーティストたちが作っているんだよ」

 監督はこうも言う。

「“映画は共感を作るマシンだ”という言葉がある。共感力は人間のいちばん美しい資質だと思う。世界中の何百人ものスタッフがひとつの目標を共有して、何年もかけてこの映画ができた。本当に誇りに思う」

(ライター・鈴木あずき)

AERA 2019年8月26日号