赤いハチマキを腕に巻いて応援する海星の野球部員ら(c)朝日新聞社
赤いハチマキを腕に巻いて応援する海星の野球部員ら(c)朝日新聞社
コーチが撮った集合写真(提供)
コーチが撮った集合写真(提供)

 台風10号による中止の影響などなかったかのように、第101回全国高校野球選手権大会は盛り上がりを見せている。

【写真】はじけんばかりの笑顔!コーチが撮り続けた海星野球部


 九州勢で唯一、ベスト16入りを果たした長崎県代表の海星。長崎県大会では、ノーシードから逆転、逆転の試合で勝ち上がり、奇跡的な優勝を果たした。甲子園でも、福島県代表、聖光学院との初戦を1点差で逃げ切った。16日は、ベスト8入りをかけた青森県代表八戸学院光星との試合が注目の的だ。

 海星野球部の井手口慎コーチは、「今年のチームは、投手も完投できるレベルではなかった」と打ち明ける。事実、大会前の4月26日に行ったダブルヘッダーの練習試合では、創成館に12-1、長崎日大に15-2といずれも7回コールド負け。9回まで試合を戦い切ることさえできなかった。井手口コーチは言う。

「長崎県大会でベスト8に入れれば、というのが当時の目標でした」

 だが、いざ地方大会が始まれば、5年ぶりの甲子園出場。12日の聖光学院との試合でも、17年ぶりの“夏の勝利”を手にした。井口コーチによれば、この快進撃はあるメンタルトレーニングの成果だという。

「もう少し何とかならないものかと思案していた時、地元で長く応援してくれている企業の社長から、結果が出る前に勝利をイメージして祝う『予祝(よしゅく)』という考え方を教えてもらったんです」(井手口コーチ)

 聞きなれない言葉に、当初は半信半疑の気持ちもあった。だが、実際に、この考え方を取り入れている星稜や高知商業など4校が、昨年の100回大会に出場していることを知り、物は試しと「予祝」を提唱する大嶋啓介氏のもとを訪ね、メンタル指導に取り入れることにした。井手口コーチは振り返る。

「選手たちは最初、『やらないと言ったら、怒られるから』くらいの反応でした。でも、『本気のじゃんけん』は気に入ったみたいで、地方大会から、試合前とグランド整備が入る5回に必ず行っています。選手たちにとって、不思議と勝てるおまじないのような感じで、欠かせないルーティーンの一つです」

「本気のじゃんけん」は文字通り、本気でじゃんけんをすること。じゃんけんでの勝利を本気で喜び合うことで、最高の心の状態を作り上げることができるという。一見単純なように思えるが、緊張感を一瞬で解く効果もあり、選手もベンチも楽しい雰囲気になるという。

「予祝は未来の姿を想像し、今その瞬間に喜んでしまうというもの。地方大会まで時間もあまりなかったので、監督も指導陣もできることはすべてやろうと必死でした」(井手口コーチ)

 勝利をイメージして行う「予祝ヒーローインタビュー」に、地方大会前日の“優勝を祝う”監督からのビデオメッセージ。チーム全員で、まだ手していない優勝を祝った。「優勝おめでとう。3年間よく頑張った」という監督のメッセージに、選手らは涙を流したという。

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集合写真に見た”変化”