「待遇はもちろん意識しました。働く以上、能力や成果に見合った額を受け取りたいのは当然です。人間的に憧れる社員に多く出会い、入社を決めました」

■安定に魅力を感じない

 就活中の学生たちは、高年収企業をどう考えているのだろう。

 北海道大学大学院修士2年の男子学生(25)は、グローバル展開を進める企業に惹かれる。実力主義は必須条件だ。

「年齢で給与が決まるのは納得できません。20代でも成果に応じて高給になる企業に行きたいです。結果を出す自信はあるし、激務も気になりません」

 慶應義塾大学4年の男子学生(21)はITエンジニア志望。卒業を1年延ばして技術を磨き、来年度の就活に挑むという。

「いずれはグーグルに行きたいですが、まず国内の大手ITかメガベンチャーをターゲットに就活する予定です。実力で評価してくれる方がやりがいになりますね」

 一律初任給・年功序列賃金は長期雇用が前提で、雇用の安定に寄与してきた面もある。しかし、学生たちの意識も変わりつつある。大手企業の広報担当者は、こんな言葉を漏らしていた。

「うちは一括採用、一律初任給ですが30代前半で年収1千万円に乗るし、ネームバリューもある。手前味噌ですが人気企業です。それでも、絶対に採りたいと思った学生から内定辞退されることが増えました。優秀な学生ほど安定に魅力を感じず、最初から個人を見て評価してほしいと思うようになっています。いずれ、採用システムを大きく変える必要が出てくるでしょう」

 何としても優秀な人材を、という企業の思いと、評価されたいという学生たちの根源的な欲求が、日本の採用システムを大きく変えていくかもしれない。(編集部・川口穣)

AERA 2019年8月5日号より抜粋

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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