DVの本質は「力と支配」にあるといわれる。加害者の更生では、「対等・平等」の関係になるまでを目指す。「女性・人権支援センター ステップ」で(撮影/鈴木芳果)
DVの本質は「力と支配」にあるといわれる。加害者の更生では、「対等・平等」の関係になるまでを目指す。「女性・人権支援センター ステップ」で(撮影/鈴木芳果)

 千葉県野田市の女児虐待死事件で、母親に下された判決は執行猶予付きの有罪判決だった。夫に支配され抵抗が困難だったことが考慮された形だ。こうした夫が妻を支配するDV加害者の心理のメカニズムとは。

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 DV加害者にはどのような人が多いのか。加害者更生教育に取り組むNPOアウェア事務局長の吉祥眞佐緒(よしざきまさお)さん(49)は、DV加害者には三つの特徴があると指摘する。

 まず、「正しい病」にかかっている人。正式な病名ではないが、俺は正しくてお前が間違っている、だから俺の言うことを聞けという人たち。同NPOに来る人はほぼ全員、これに当てはまるという。次に「特権意識」を持つ人。妻より自分の方が特別な権利があると思っている人で、「俺が一家の大黒柱だ」という意識。経済的な特権だけでなく学歴、会社の規模、さらには身長に至るまで、理由は何でもよく、とにかく自分の方が優位であることを示したいのだという。

 3点目は「自己中心的」な人。外面はいいが、家庭では自己中心的、という人もいる。「この家は俺を中心に回っている」と考えているからだ。

「なかには幼少期に虐待を受けた経験のある人もいますが、これら三つの特徴を持つようになるのに、育った環境は要因の一つに過ぎません。DVを振るうのは圧倒的に男性が多いですが、男が無条件に偉いという意識や価値観は、社会が育てています」(吉祥さん)

 妻に長年DVを加えていた40代の男性は、幼稚園の時から「男は一番になること」を意識してきた。小学校に上がると、友だちからリスペクトされるトップこそ偉いという価値観を身につけた。社会に出ると、出世競争の中で他人を蹴落とす“術(すべ)”を教わったという。吉祥さんはこう話す。

「自分流にカスタマイズする方法がそれぞれ違うだけで、DV加害者の多くは子どもの時から少しずつ、男としてどう生き、女より上に立つにはどうすればいいかとずっと考えています。この論法であれば妻に勝てるという方法を、各自が持っているのです」

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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