稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
会社を辞めてパソコンをアップルに変えた。本によると、セクシーに見られたい心理が動いているらしい…(写真:本人提供)
会社を辞めてパソコンをアップルに変えた。本によると、セクシーに見られたい心理が動いているらしい…(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】会社を辞めてパソコンをアップルに変えた稲垣さん

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 落ち着いた地味暮らしを満喫しているはずが、実は最近、困った相手に悩まされていることを打ち明けようと思う。

 時は昨年にさかのぼる。

 話題になっていた『GAFA(ガーファ)』という本を読んだ。現代を支配する巨大企業(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)の巧妙すぎる錬金術を解き明かした本。ネット音痴の私には実に驚くべき内容であった。今更ながら自分の無知と能天気さに呆れるばかりであった。

 というのはですね、私、気づけばネット音痴と言いつつこの4社と密接にコンタクトをとりつつ日々を生きている。とっても機嫌良く。中でもグーグルとフェイスブックに関しては「なんて親切な会社◯(◯はハートマーク)」と思っていた。いやそれすら意識せぬほど当たり前に恩恵を受けてきた。なんたってタダ。なのに瞬時に知りたいことを教えてくれる。友達との交流の場も提供してくれる。まあ世の中には奇特な人がいるもんだと……バカだねそんなことあるわけない。でも私は、そのことの持つ意味を全然真面目に考えてこなかったのだ。

 一番震撼したのは、グーグルは現代の神という記述。その人が真に何者で、どんな恥ずかしい欲望を持ち、何に悩み、さらにはこれから何をしようとしているかまで、家族にも親友にも言ったことのない、まさに神のみぞ知ることをグーグルは知っている。なぜ? 簡単なことだ。その人の検索ワードを見れば一発である。確かに自分の今日1日の検索ワードをたどると、家族も親しい知人も誰も知らない、めちゃくちゃ赤裸々な自分がそこにいるではないか!

 フェイスブックも同様。投稿内容はもちろん、誰のどんな投稿に「いいね」したかを見ればその人の指向性が見えてくる。そこには本人もはっきり認識していない「急所」も含まれる。理知的に振る舞っていても、ある過激な主張に思わず「いいね」した経験はないだろうか? 私にはある。その急所を突かれたら人の理性などひとたまりもない。フェイスブックもまた別の「神」なのだ。(つづく)

AERA 2019年6月17日号

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稲垣えみ子

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稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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