全3フェーズで空飛ぶクルマの開発を競う同コンテストは、1、2次選考を経て、20年の第1四半期に米国で開催される約11キロのコースを飛行するタイムトライアルなどで最終評価が決まる。最優秀チームには100万ドル(約1億1千万円)が贈られる。

 テトラが世界トップ10で通過した1次選考のテーマは「設計」。高性能を期待できる実現可能な設計かどうかを専門家が審査し、約600チームから167チームに絞られた。

 中井さんが心掛けたのは「なるべく軽く、簡単に作れて、長距離飛行できる」というコンセプト。重量は人が乗った状態で約200キロ。大型バイクほどのサイズだ。1次選考の結果に「自分たちは間違っていなかった」という自信と、トップ10という責任感が同時にわいた。「もう逃げられない。やるしかない」とスイッチが入った。

 直後にチームを法人化。試験飛行や実証実験の際の事故などで生じた賠償責任についての補償を受けられる「空飛ぶクルマ保険」の適用を日本で初めて受けた。1次選考の高評価が反響を呼び、海外からインターンとしてチームに参加したい、との連絡も入る。

 今年3月には、動画で試作機のパフォーマンスを競う2次選考をパスし、3次選考に進出。現在残るのは31チームだ。

 テトラの最終目標は、米国での航空機認証だという。

「まずはコンテストで優勝し、世界最上位の航空先進国である米国でお墨付きを得るのが必要なプロセスだと考えています」

 叔父がパイロットだったこともあり、幼少期から空に憧れた。大学院での専門は破壊力学。主にロケットの設計や素材の耐久性の研究に取り組む中井さんにとって、空飛ぶクルマの開発は専門領域と重なる部分が多い。

「ロケットも好きですが、僕が乗れないんです。何よりも自分が乗りたい、そしてとにかく早く移動したい。だから空飛ぶクルマに情熱を傾けられる」

「たすく」という名前には、「人助けする生き方を」という親の思いが込められている。どうすれば人の役に立つのか、ずっと考えていた。難題だ。今はこう思っている。

「自分が抱えている課題を一歩一歩解決していくことが、他の人の役にも立つはずだ」

(編集部・渡辺豪)

AERA 2019年6月10日号より抜粋

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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