Wi-Fiの端末を、子どもがニューヨーク市内の公立学校に通う低所得者層の家庭に無料で貸し出しているが、このサービスはマークス館長がブロンクスの分館で、ある少年と出会ったことがきっかけで始まった。夕方、図書館が閉まった後も少年は扉の外に座り、Wi−Fiの電波を受信しようとしていた。「学校の宿題をやるのに、ここは安全だから」と語ったという。「情報格差があるにもかかわらず、米国の教育現場ではデジタル化が非常に進んでいる」

 とウェルチさんは指摘する。

 5月のはじめ、1911年の開館以来ここを守り続ける2頭の大理石のライオンに挨拶し、広大な「知の殿堂」に足を踏み入れると、多くの人が出入りするにもかかわらず、静謐な空気が流れていた。

 数々の映画に登場する、天井の絵画や装飾が美しい閲覧室はほぼ満席で、利用者は観光客の視線をものともせず、調べ物や執筆に集中していた。長い廊下では、LGBTの権利向上を求める運動が全米に広がる契機となった「ストーンウォールの反乱」から50年を記念する企画展が7月13日まで開かれている。

 図書館の正面に続く41番街の歩道には、先人の名言を刻んだブロンズ板が埋め込まれている。その一つに、建国の父トーマス・ジェファーソンが遺した言葉があった。

「報道の自由があり、誰もが文字を読めるところは、安心して暮らせる」

(ジャーナリスト・原賀真紀子)

AERA 2019年6月3日号