なぜ絵を描くのか。そんな問いに、多くのアーティストは「自身を表現したいから」と答えるだろう。「アイドルである自身を表現したいから」という話は、個性的な人が多いアート界でも、めったに聞かない。香取さんの口から、「アイドル」という肩書が出てくるのも意外といえば意外だ。

「そうですか? 僕は完全にアイドルですよ。アイドル以外の何者でもない。何年も前から『パーフェクトビジネスアイドル』と、自分でよく言っています。アイドルでありビジネスでありを完璧にこなしたい。最初の頃こそファンの人たちも『そんな(夢のない)こと言わないで』と言っていたんですけど、最近は僕がいい仕事をすると、SNSやツイッターで『さすがパーフェクトビジネスアイドル!』って言ってくれます」

「アーティスト香取慎吾」という人格を、こんなふうに楽しんでもいる。

「今までは、人につくられている僕もいた。でも、アートに関しては、全部自分。描き始めも、描き終わりも自分で決めていい。展覧会などほかの部分でスタッフの助けはもちろん不可欠だけど、一点の作品は、ほぼ全部僕が作っているもの。今まで映画でも、バラエティー番組でも、いっぱい自分を入れたくて、人並み以上に打ち合わせを重ねるほうでした。でもそれと比べても、自分のいろいろな部分を初めて世に出せている場所が、アートだと思います」

 影響を受けたアーティストは、今回の展覧会の図録に対談も収録されている会田誠や、横尾忠則、ゴッホ、岡本太郎、アンディ・ウォーホル、バスキアや大竹伸朗など。現代美術のお家芸といえる「破壊」への願望は、アーティスト香取慎吾にも芽吹いている。

「カラフルな絵の具を細かく置いたところに、黒の絵の具をドバーッと流すときの美しさってない。もう少し、もう少しと、結局真っ黒になってしまうことも。つくっている間、考えていることですか? うーん、ペインティングもオブジェも、遊び感覚……というか、ゲーム感覚ですね。僕はここに何色を塗ろうとか、考えないタイプ。偶然つかんだ色を塗って、『いいね、お前よくここに選ばれたね』って。色をオーディションするゲームですね」

次のページ