それってもしかして、いわゆる「神さまが降りてくる」というやつですか?
「神さま、とはいかない。それより、“違う自分”が降りてくる感じかな。『今描いたらおもしろいんじゃない?』『いやいや今疲れてるから』『そうそう、今日はいいよ』。そんな会話が頭のなかで続きます。『もうひとりの自分』じゃないですね。『もういっぱいいる自分』です(笑)」
オープン直前は、会場に何日も泊まり込み、制作の追い込みをかけたという。「自分の家に皆さんが絵を見に来てくれたような不思議な気持ち」という名コメントも、メディアを賑わせた。描きすぎて、「草間彌生さんと対談させてもらったとき、『絵を長く描くなら気をつけてね』と言われた腰痛」も、とうとう現実のものになってしまったという。
香取さんの思いは見る人にもしっかり伝わっている。都内から友人とやってきたという、40代のグラフィックデザイナーの女性はこう話す。
「とにかく明るい、慎吾ちゃんのキャラクターどおりの作品ばかりじゃなく、ネガティブを感じる作品もありました。10代のときからずっと彼を見てきましたけど、今まで知らなかった慎吾ちゃんに会えた。これまで以上に彼を身近に感じられて、本当に来てよかった」
もう一人。アーティスト香取慎吾のなくてはならないサポーターがいる。オープニングで、会場の片隅から香取さんの晴れ舞台を見守っていたあの人。そう、草なぎ剛さん(44)だ。
香取さんによれば、ずいぶん前、身近なスタッフたちと「新しい地図」として今後どんなことをしていきたいかについて話していたときのこと。突如、草なぎさんが、香取さんの絵について熱いプレゼンを繰り広げたのだという。
「慎吾は絵がすごく好きで、これがすごくよくて! おい、慎吾、作品の写真持ってないのか? せっかくだから見てもらえ!」
草なぎさんのセールストークが、巡り巡ってルーブルの個展や、この日本初個展「BOUM! BOUM! BOUM!」につながった。
「草なぎとは30年くらいの付き合いですが、あんなに熱く語っているのを初めて見た。『うるさいよ!(笑)』っていうくらいの猛烈なアピールでした。あれがなければ、今ごろここには……はい。いなかったと思います」
草なぎさんにあのとき突然降りてきたのもまた、神さまだったのか。感謝せずにはいられない。(ライター・福光恵)
※AERA 2019年5月13日号より抜粋