この事件などを機に13年、ストーカー規制法は改正され、メールを繰り返し送る行為も「つきまとい行為」の対象となった。

「ストーカー行為を限定的に定義したことで、警察の介入をきわめて消極的にしてしまった。すべてのストーカー行為に対応できるよう、さらに法律を改正すべきです」(諸澤さん)

●「娘に代わってしゃべる」その使命感で人前に出る

「娘は見殺しにされた」という思いを抱いていた詩織さんの父憲一さんは長い間、警察では講演をしてこなかった。だが、いつか現場の人たちに思いを伝えたいという気持ちもあった。初めて警察で体験を語ったのは、17年9月。京都府警察学校で200人近い警察官や警察学校の生徒らを前に、命を奪われた娘と家族が強いられた苦しみを語り、市民の嘆きや悲しみを聞いてほしいと訴えた。犯人と直接対峙し、捕らえることができるのは警察だけなのだ、と。

 約13年前に胆管がんが見つかったとき、「もう死んでもいいと思っていた」と憲一さんは振り返る。

「当初は法律ができたから何なんだ、そんなことよりも娘を返してくれ、という思いが強かった。それが徐々に、じゃあ娘のために親として何ができるのか、と考えるように心が変わっていきました」

 被害を食い止めるには捜査を通じた対応だけでは限界があるとして、警察庁は16年4月から加害者に、精神科医による治療やカウンセリングを勧める取り組みを始めた。

 こうした加害者の更生支援について、憲一さんはどう考えているのか。

「治療によって治るのであれば治してほしい。被害者を増やさないために、強く反対しない立場をとっている。ただ、加害者に言いたいのは、愛していようが何だろうが、相手はお前の持ち物じゃないということ。このことを理解できなかったら、何をしてもだめです。それを擁護するような考えを持つ人間を強く恨みます」

 事件から20年経ついまも、憲一さんは学校や行政機関などで講演を続け、「命」の大切さを訴えている。人前で話すのは勇気がいる。だが娘はもっと苦しい思いをした。それに比べれば人前で話すくらい何でもない、と力を込めた。

「いまは、娘に代わってしゃべらないといけないんだという使命感で話しています。ストーカー被害で苦しむ人がいる限り、活動していきます。それが、かけがえのない私たちの娘、詩織との約束でもあります」

 21歳の無念に、私たち社会も応えていかなければいけない。(編集部・野村昌二)

AERA 2019年3月25日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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