13年10月に東京都三鷹市の高校3年の女子生徒が元交際相手の男に刺殺された事件や、17年1月に長崎県諫早市の女性(当時28)が元夫に刺殺された事件も、被害者がつきまとい行為を警察に相談していたが、未然に防ぐことはできなかった。なぜいまも、被害は増え続けているのか。

 ストーカー問題に詳しい常磐大学元学長の諸澤英道(もろさわひでみち)さん(被害者学)は、「これまで表に出にくかった被害が顕在化したことが背景にある」と見る。ストーカー行為から発展した凶悪事件がメディアで報道され、社会の意識も徐々に高まり、隠されていた被害が掘り起こされた結果だと言う。

「しかも、表面化しないものを含めると、5倍近いストーカー被害者がいると考えられます。山に例えると、支援を受けられるのは8合目から上にいる被害者、それが2万3千人という数なのです」(諸澤さん)

 残りの被害者が駆け込める「受け皿」がほとんどないことが問題だと、諸澤さんは言う。各都道府県に被害者支援センターは置かれているが、積極的な対応に欠けることが多いという。かと言って、警察が全ての相談に応じるのは物理的に難しい。

「支援窓口の設置、日常生活の支援、住まいや仕事の安定……。被害者にとって最低条件となる支援をどこでも等しく受けられることが必要で、そのためには、都道府県レベルでの条例の制定が不可欠です。条例をつくることで、いままでNPOやボランティアに頼ってきた被害者支援を行政が担うようになる」(同)

●1千通超のメール送信でも、違法性を問えなかった

 また、ストーカーを取り締まるストーカー規制法には致命的な欠陥がある、と諸澤さんは指摘する。

 同法第2条は、つきまとい、監視、面会や交際の要求など八つの行為を「つきまとい等」とし、それを反復して行うと「ストーカー行為」と定義した。警察が加害者にやめるよう警告し、逮捕することもできる。しかし、八つの行為に限定したことによって、条文に明記されていない行為はストーカー行為に当たらないという運用になっている点だ。

 12年11月、神奈川県逗子市で当時33歳の女性が元交際相手の男(当時40)に刺殺され、男は直後に自殺した。この「逗子ストーカー殺人事件」で、男は「結婚を約束したのに別の男と結婚した。契約不履行で慰謝料を払え」などと書いた1千通を超えるメールを女性に送りつけていた。

 だが、当時ストーカー規制法では電話やファクスで繰り返す嫌がらせについては禁じていたが、メールは対象外だった。担当した神奈川県警逗子署はすぐに違法性を問えないとして、捜査を終了。その後もパトロールを続けたものの事件を防ぐことはできなかった。

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