稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。著書に『寂しい生活』『魂の退社』(いずれも東洋経済新報社)など。『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』(マガジンハウス)も刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。著書に『寂しい生活』『魂の退社』(いずれも東洋経済新報社)など。『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』(マガジンハウス)も刊行
直してもらったサングラス。ついでにレンズもピカピカに磨いて下さり生き返ったよう(写真:本人提供)
直してもらったサングラス。ついでにレンズもピカピカに磨いて下さり生き返ったよう(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【稲垣さん愛用のサングラスの写真はこちら】

    
*  *  *

 先日、愛用のサングラスの鼻の部分の部品が取れてしまったので、近所の商店街の古~い眼鏡屋兼時計屋さんへ恐る恐る入ってみる。そういえば、昔は眼鏡屋といえば時計屋を兼ねていたんだっけ。店内も超レトロというか、時計屋なのに時が止まったようであります。

 店主のおじいさんに「あのー、眼鏡の修理をお願いしたいんですけど」と言うと、おじいさん、パッと見て「同じ部品はないけど、似たので良かったら」。はいそれでお願いします。待つこと数分。「ちょっとかけてみます?」。あらなんか顔にピタッと吸い付く。「右側が少し歪んでたから、ついでに調整しときましたよ」。お値段500円。

 ……とまあそれだけのことですが、なんかえらくトクした気持ちになりスキップで帰る。プロの仕事を見せていただきましたという感じ。考えてみれば、何かを売るだけならそれほどの専門知識がなくてもできそうですが、修理はそうはいきません。壊れたものって作られた年代もメーカーも違うので、対応するのはかなりの知識と経験が必要とされるはず。それを眉ひとつ動かさずチャチャッとやってのける職人が当たり前に近所にいるゼータクよ。壊れたらまたここに来ればよいのだと思うとまことに心強い。

 で、実は私にはこのおじいさんの他にもマイ修理人がいるのでありました。自転車。カバン。靴。服。鍵……。必要最低限のもので暮らし始めてみるとほとんどのものを毎日使うことになり、となればすべてが「戦友」レベル。富める時も病める時も私と共にいてくれるかけがえのない存在。壊れたくらいで見捨てることなどできようか。かくして、何かが壊れたら新品を買うのでなく、修理人を探すという新たな行動を取るようになったのでした。

 何かを直せる人って、本当にかっこいいです。買っているだけじゃ、そんな人がどこにいるのかわからなかった。「修理する」という行動を取るだけで、そんなかっこいい知り合いが増えていく。ああこんなところに人生の鉱脈が。

AERA 2019年3月4日号

著者プロフィールを見る
稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

稲垣えみ子の記事一覧はこちら