タイミングを見て会議を抜け出し、カード会社にすぐさま電話を入れた。幸い引き落としまではまだされてはいなかったが、個人情報をきっちり吸われてしまっている上に、ソフトをインストールしてしまった。これがまたぞろ何かの呼び水になるであろうことはインテリな私にはすぐに分かった。

 きっと疲れていたのだと思う。人生において運悪くパソコンの開発には関わっては来なかった私だが、世間の大体の事はわかっている。そんな私でも疲れる時はあるのだ。そしてこのようなかわいらしい失敗をすることもある。だから私は私をやめられない。

 急いでアップルストアに行く。ジーニアスバーに相談して、ソフトを削除。「たぶん問題ない」というお墨付きをもらう。ま、もちろんわかってはいたが。

 そわそわした気持ちを紛らわすためにタブレットを購入することにした。最新のやつを買ってやるのだ。

 しかし、それにしてもこんな展開ってあるだろうか。店員からの説明を聞いている時だった。端にあるカウンターの背の高い椅子に腰掛けて、「なるほど」とか言いつつ、そっと足を組み替えた時だ。そのまま後ろに椅子ごとひっくり返ってしまった。

「テレビじゃなくても面白いんですね!」

 店員はそう言っていた。いつからだ、私だと気づいていたのは。

 PCで作業をしている私を見て人はこう言う。「賢いチンパンジーに見える」と。

AERA 2019年2月11日号

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マキタスポーツ

マキタスポーツ

マキタスポーツ/1970年、山梨県生まれ。俳優、著述家、ミュージシャンなど多彩な顔を持つ。子供4人。スポーツ用品店だった実家の屋号を芸名に。著書に『すべてのJ-POPはパクリである。』ほか。映画「苦役列車」でブルーリボン賞新人賞受賞。近刊に『越境芸人』(東京ニュース通信社)。『決定版 一億総ツッコミ時代』(講談社文庫)発売中。

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