ハットフィールド氏の研究では驚くことに、心の状態だけではなく、次第に顔の表情や姿勢、さらに声の調子まで似てくることが判明した。

 そもそも人間はポジティブな情報よりも、率先してネガティブな情報を感知し、記憶に残す生まれながらの性質を備えている。「ネガティビティーバイアス」と呼ばれる。

「ネガティブな人は、ポジティブな要素を発見しづらくなり、どんどんネガティブなものが目に入ってきやすくなっていく」

 と堀田さんが説明するように、いわば自信のない人ほど負のスパイラルに巻き込まれやすくなる。

 冒頭に登場した女性が「今はいいけどいずれは……」と子どもの先行きを考えてしまうのは、決して大げさなことではない。「心が伝播する」とは、ズボラな考えをする親に育てられた子どもが同様のズボラな思考に陥りやすくなる──そんな傾向を意味するそうだ。

 視線耐性のもうひとつの怖さは、デジタルメディアによって、視線耐性の枠を超えて「重症化」しやすくなったこと。「ネットと現実のギャップ」だ。前出の堀田さんが今回初めて新たな仮説を明かす。視線耐性が「低くなりやすい」ことにとどまらず、より深刻な社会問題へとつながる危険性もはらむという。

 都内の大学に通う女性(21)も、あらゆるものをカメラアプリ「SNOW(スノー)」で撮影、加工してSNSにアップすることが当たり前だった。

「写真チェックが異常に厳しくなっている自分がいた。自信のなさや、ありきたりの日常を加工でごまかしていたと気がつきました。でも、やっぱり加工をしないと不安に感じる。なるべく控えるようにしていますが、一緒に行動するのは『加工肯定派』の友人になりがち」

 不安を感じるまでは先ほどと同じ。違うのは、心の安定を求めて同じ属性の友人と行動することだ。堀田さんは、「新しい時代の『認知的不協和』ではないか」と指摘する。

 認知的不協和とは、人間が矛盾する認知(認識)を同時に抱えた状態や、そのときに覚える不快感を表す社会心理学用語だ。「ネットと現実のギャップ」も含まれる。理想の自分があるにもかかわらず、イケてない現実社会の自分がいる。その葛藤にさいなまれる状態だ。

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