「痛勤」はもうイヤ。座りたい。ささやかで切実な夢をかなえてくれる「通勤ライナー」が続々デビュー。各社の経営を支える勝負手でもある。
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平日の午後8時前。京王線新宿駅は帰宅のラッシュアワーを迎えていた。電車がホームへ滑り込みドアが開くと、乗客は殺気立ち、我先にと車内になだれ込む。だが、2番ホームに“殺気”はない。8時ちょうどの「京王ライナー」は、400円の追加料金でチケットを手に入れれば、必ず座れるのだ。
「400円でVIP気分です」
そう話すのは、都内の不動産会社に勤める男性会社員(42)。終点の京王八王子まで40分かけて帰る。以前は立って帰ることが多かったが、年齢もありつらいので、週に2、3回は座って帰るようになった。月5千円近くの追加料金は自己負担だが、「私は気にしない」と話し、座席で目を閉じた。
この京王ライナーは、京王電鉄が約100億円を投じて新型車両50 両を導入し、今年2月に運行を開始した。鉄道事業本部計画管理部企画担当課長の川島洋祐(ようすけ)さんは言う。
「座って帰りたいというお客さまの満足度と、沿線価値の向上を図るのが目的です」
普段はロングシート(窓を背にして並ぶ座席)で走っているが、夕方以降はクロスシート(進行方向に向いて並ぶ座席)の通勤ライナーに「変身」する。
運行開始から約9カ月。この日の午後8時発の一番列車は、出発の5分前には完売した。会社員を中心にリピーターが多く、平日は8割、23時台までだと9割近い乗車率だと言う。
「本数を増やしてほしい、朝も走らせてほしいといった声も寄せられています」(川島さん)
乗りたくなくても乗らなければならないのが朝晩の満員電車だ。2年前、小池百合子都知事は「満員電車ゼロ」を公約に打ち出したが、通勤に余裕ができたとはとても思えない。公約に掲げた「2階建て通勤電車の導入促進」は、「進展はない」(東京都)といい、具体的な検討課題にすらなっていない。