【京王電鉄】京王ライナー/新宿~京王八王子と橋本(神奈川県)の2方面に向け、計1日10本運行。1編成10両で座席数は438。追加料金400円。平日は午後8時~午前0時台に新宿を出発(撮影/今祥雄)
【京王電鉄】京王ライナー/新宿~京王八王子と橋本(神奈川県)の2方面に向け、計1日10本運行。1編成10両で座席数は438。追加料金400円。平日は午後8時~午前0時台に新宿を出発(撮影/今祥雄)
ライナー用チケットはウェブや新宿駅に設けた券売機で購入できる(撮影/今祥雄)
ライナー用チケットはウェブや新宿駅に設けた券売機で購入できる(撮影/今祥雄)
車内はフリーWiーFi環境が整い、各座席には電源コンセントもついている(撮影/今祥雄)
車内はフリーWiーFi環境が整い、各座席には電源コンセントもついている(撮影/今祥雄)

「痛勤」はもうイヤ。座りたい。ささやかで切実な夢をかなえてくれる「通勤ライナー」が続々デビュー。各社の経営を支える勝負手でもある。

【写真特集】座って通える「通勤ライナー」が続々登場

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 平日の午後8時前。京王線新宿駅は帰宅のラッシュアワーを迎えていた。電車がホームへ滑り込みドアが開くと、乗客は殺気立ち、我先にと車内になだれ込む。だが、2番ホームに“殺気”はない。8時ちょうどの「京王ライナー」は、400円の追加料金でチケットを手に入れれば、必ず座れるのだ。

「400円でVIP気分です」

 そう話すのは、都内の不動産会社に勤める男性会社員(42)。終点の京王八王子まで40分かけて帰る。以前は立って帰ることが多かったが、年齢もありつらいので、週に2、3回は座って帰るようになった。月5千円近くの追加料金は自己負担だが、「私は気にしない」と話し、座席で目を閉じた。

 この京王ライナーは、京王電鉄が約100億円を投じて新型車両50 両を導入し、今年2月に運行を開始した。鉄道事業本部計画管理部企画担当課長の川島洋祐(ようすけ)さんは言う。

「座って帰りたいというお客さまの満足度と、沿線価値の向上を図るのが目的です」

 普段はロングシート(窓を背にして並ぶ座席)で走っているが、夕方以降はクロスシート(進行方向に向いて並ぶ座席)の通勤ライナーに「変身」する。

 運行開始から約9カ月。この日の午後8時発の一番列車は、出発の5分前には完売した。会社員を中心にリピーターが多く、平日は8割、23時台までだと9割近い乗車率だと言う。

「本数を増やしてほしい、朝も走らせてほしいといった声も寄せられています」(川島さん)

 乗りたくなくても乗らなければならないのが朝晩の満員電車だ。2年前、小池百合子都知事は「満員電車ゼロ」を公約に打ち出したが、通勤に余裕ができたとはとても思えない。公約に掲げた「2階建て通勤電車の導入促進」は、「進展はない」(東京都)といい、具体的な検討課題にすらなっていない。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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