「何が起きても変わらないその姿に心をうたれました。よし、絶対に温泉を再開して南阿蘇村は大丈夫だということを全国に知ってもらおうと決意したのはその時でした」

 自分の旅館だけが真新しく再開しても意味はない。河津さんの決意とはうらはらに、地震発生後、村の人口は減少し続けている。同じ村でも被害を受けた人とそうでない人の間に格差が生じ、被災者同士のいさかいに発展する。復興に向けて、やれるという気持ちとやめたいという気持ち。後者が勝ることもある。地震で全てを失った被災者だからこそ、河津さんには実現したい夢がある。

「清風荘を現代の湯治場として蘇らせたいのです。これからも各地で地震や豪雨被害は発生します。そこで、私たちと同じ体験をした人が、お湯にゆっくり浸かりながら心を癒やす。失敗の経験を語ることで、それが次の災害の復興のヒントになると思うんです」

 河津さんに、「私たちにできることは何ですか」と尋ねた。すると、「待つということも復興支援のひとつの方法です」と答えが返ってきた。風化が進み忘れ去られる被災地に思いを馳せて「待つ」。清風荘は20年春の再開を目指している。(編集部・中原一歩)

※AERA 2018年12月24日号より抜粋