この日は日曜日。その避難所の入り口から100メートルも離れていない場所に、プラカードを掲げた人たちが詰めかけて大騒ぎになっていた。

 移民キャラバンに反対するティフアナ市民ら500人以上がデモを行っていたのだ。
 警官隊は、デモ隊と接触させまいと、移民キャラバンの参加者たちを避難所の中に押し込めていた。フェンスの内側で、ひしめきあう移民キャラバンの参加者たちは、まるで収容所の中にいるようにも見え、気の毒に思えた。

 ホンジュラスから移民キャラバンに参加したカルロス・ヘルナンデス(27)は、「私たちは迷惑をかけに来たのではない、ということをわかってもらいたい。私はただよりよい生活をしたいだけなのに」と戸惑った様子だった。

 もともと銀行などの警備員の仕事をしていたが、犯罪組織から「協力しろ」と何度も脅かされるようになっていたという。拒んでいると、今度は「家族に危害を加える」と脅迫され、どうしようもない状況に追い込まれていた。移民キャラバンが米国国境に向かって進み始めた話を聞き、「これに参加するしかない」と合流した。

 ホンジュラスには妻と幼い子どもを残してきている。「いずれは家族を呼び寄せたい」と話した。米国に入国できなくても、「カナダでも、メキシコでもいいから、仕事を見つけたい」。

●生活が脅かされる不安感じ、メキシコでも「出て行け」

 こうした、やむにやまれぬ事情で米国国境を目指してきた移民キャラバンの参加者たちに、なぜティフアナ市民たちは「出て行け」と迫るのか。

 背景にあるのは、国境をはさんで、サンディエゴとティフアナが経済的に強く結びつき、ティフアナの住民が享受してきた豊かで安全な生活が脅かされることへの不安だった。

 地元の研究者によると、ティフアナ市の経済は過去20年にわたり、急激な拡大を続けてきたという。サンディエゴ市側は生産性の高いハイテク企業が集積しているのに対し、ティフアナ市側は、工場での組み立てなど労働集約的な役割を担い、相互補完的な経済圏を構成するようになっているのだ。そのおかげで、ティフアナ市には医療機器の組み立てなど、より高度な工場が集積するようになり、労働力の高学歴化も進んでいた。好循環が作りだされているのだ。

 米国在住のメキシコ系移民2世、30代前半のアルベルトは、「みなが恐れているのは、移民キャラバン対策で、米国側が国境を急に閉鎖することだ」と話した。姓も正確な年齢も記事にするのは拒否された。微妙な立場がうかがえる。

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