米国とメキシコの国境に、中米からの移民キャラバンが到着した。トランプ大統領が米軍まで投入し、催涙弾が発射される事態に発展。その現場では、弱者への差別が連鎖していた。
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「美しい壁をつくろうじゃないか」
米国大統領のドナルド・トランプが2016年の大統領選中から、そう何度も繰り返してきたメキシコとの間の「国境の壁」。それが本当に必要なのかどうか、人々の関心を集める局面が米国で訪れている。
中米から、米国入りを目指して4500キロもの距離を移動してきた「移民キャラバン」が、11月半ばに米国の国境までたどりつき、一方でトランプは米軍5千人まで動員して、国境を守る考えを鮮明にしたからだ。
国境で何が起こっているのか。
その現場である米サンディエゴ郊外、米国本土の西側の端で国境線を接する「インペリアルビーチ」。11月にもかかわらず、強い日差しで汗ばむ陽気だった17日、私は現場を訪れた「国境の壁」は6メートルほどの高さがある鉄製のフェンスだった。
フェンスの上には、鉄条網が幾重にも張り巡らされ、米国境警備隊員が目を光らせている。少しでも近づこうとすると、大きな警告音が鳴る。上空には時折ヘリコプターが旋回し、ものものしい警戒態勢だ。
フェンスの向こうのメキシコ側では、「壁」のすぐそばまで観光客が近づいて、隙間から米国側を眺めて写真を撮ったり、手を振ったりしている。
それと比べて米国側は、鉄製フェンスの「壁」の内側約30メートルのところに、もう一つのバリケードが設けられていた。「壁」は二重になっており、近づくことすらできなかった。
ジョン・ブラッドショー(56)は、近くの町で大工をしている。中米からの移民キャラバンが押し寄せていると聞き、いても立ってもいられず、この土曜日の朝、国境までやってきた。
「ここで不法移民を食い止めなければ、どんどん北上されてしまう。ここで止めないといけないんだ」
米国旗をあしらったTシャツ姿のブラッドショーは、私に早口でまくし立てた。
●米国人の日常を支えてきた移民が「向こう側の人」に
ただ、この海岸にある高さ6メートルほどの壁は、以前からある。新たに建設されたものではない。トランプの大統領選キャンペーンで象徴的な公約だった「国境の壁」の建設は、ほとんど実現していないのが実態だ。
そもそもトランプは、「壁」建設のための大規模な予算について、米議会の承認をとりつけられていない。「メキシコに払わせる」とも公約してきたが、メキシコ側も断固拒否の構えだ。