「空中の本」という概念をさらに象徴的な展示とするために、青木は部屋の中央部に透明なアクリルケースの梁(はり)を設置したり、細いワイヤで作品を吊ったりして、作品がひとつずつ空中に浮かぶような構成を実現した。

 平出得意の極小の出版物が展示室の中を飛んで、誰かの元へと運ばれていく。そこでは数々の言葉も浮遊しており、それを追いかけながら読んでいくというしくみである。

 平出が創刊した「via wwalnuts叢書」では、封筒を表紙として考え、中に8ページの特殊な製本をした本文が入っている。ほぼ手作りの本だ。「それではただの手紙じゃないの」と言われそうだが、封緘(ふうかん)に使った小さな四角いシールにはちゃんと流通に必要なバーコードが印刷されており、本として通用するという(だからアマゾンでも買える)。紙質も書体も、切手も、それを貼る位置も考え抜かれている。

 展示全体から漂う空気はごく静かなものだが、平出が長年考え、実践してきた「出版」という行為が目の前にゆらゆらと浮遊しながら現れる時、見る者も既成概念から浮遊する感覚を味わうことだろう。(ライター・千葉望)

AERA 2018年12月10日号