■書店員さんオススメの一冊

『犬も食わない』は、尾崎世界観さんと作家の千早茜さんによる共作恋愛小説だ。三省堂書店の新井見枝香さんは、同著の魅力を次のように寄せる。

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 ロックバンド「クリープハイプ」で歌をうたいギターを奏でる尾崎世界観は、力のある書き手でもある。この共作は、彼が物語の男性パートを、そして作家・千早茜が女性パートを書くことで完成した。

「豚汁」もまともに書けないような、汚れた作業着姿の男と、常に微笑(ほほえ)みを絶やさない、秘書のお手本のようなスーツ姿の女が、ほとんど事故のように付き合い始める話だ。一緒に暮らせば、女は愛情より怒りばかりを募らせる。男が口の中に入れたままにする言葉は、何の役にも立っていない。

 なんだ、付き合うってそんなもの? ふたりとも、全然うまくできてないじゃん。恋人同士という幻想が崩れることより、安堵(あんど)と温度が心地よかった。

 痴話喧嘩(ちわげんか)は放っておけというが、こんな話、犬に食わせておくのはもったいない。

AERA 2018年12月3日号