北九州市若松区ひびきの。アジアの中核的な学術研究拠点を目指す、北九州学術研究都市。産学官が集まるこの場所に、クアンドもオフィスを構える。左が中野、右が下岡(撮影/江藤大作)
北九州市若松区ひびきの。アジアの中核的な学術研究拠点を目指す、北九州学術研究都市。産学官が集まるこの場所に、クアンドもオフィスを構える。左が中野、右が下岡(撮影/江藤大作)
福岡県苅田町にある豊鋼材工業の工場。最大45tの巨大なコイル材が加工されていく。現場と意見交換をする(撮影/江藤大作)
福岡県苅田町にある豊鋼材工業の工場。最大45tの巨大なコイル材が加工されていく。現場と意見交換をする(撮影/江藤大作)
豊鋼材の協力のもと、データ収集がおこなわれる取り組みの心臓部(撮影/江藤大作)
豊鋼材の協力のもと、データ収集がおこなわれる取り組みの心臓部(撮影/江藤大作)

 1901年の官営八幡製鉄所の操業開始以来、重化学工業のまちとして発展してきた北九州市。四大工業地帯のひとつとして明治期から日本の工業の中心となってきた。だが、近年は海外の安い製品などに押され、かつての勢いがなくなっている。人口流出、高齢化による働き手の減少も深刻な課題だ。

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 産業界全体が今後のあり方を模索するなか、若い力と新しい技術によって再びものづくりのまちに火を取り戻そうとする企業がある。

 北九州発のベンチャー企業・クアンドの代表取締役CEO下岡純一郎(31)は、北九州で生まれ育った生粋の北九人だ。九州大学理学部卒業後、京都大学の大学院に進学したのちプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)に就職。その後、博報堂コンサルティングに職を移し、2017年4月に北九州で起業した。

 下岡と同じく北九州出身で同級生のCTO、中野雅俊(31)の2人による共同経営だ。
 北九州での起業にこだわったのは下岡だった。

「北九州は立地もよく、大きな産業が栄えてきた基盤がある。ただ、古いやり方から脱却する方法を知らないまま衰退しつつある。これは、見方を変えるとポテンシャルはあるのにチャンスに巡り合えていないだけとも言える。北九州の産業に、最新テクノロジーを持ち込む面白さを感じた」

 下岡と中野の出会いは小学生の時。以来、同級生として顔見知りではあったが、特によく遊ぶ仲というほどではなかった。しかし転機は大学時代に訪れた。2人が九州大学4年時に米国シリコンバレーの学生視察プログラムで偶然再会。この時に初めてお互いが起業という共通の未来を描いていることを知った。

 大学院修了後、技術畑の中野はエンジニアとして海外での通信事業の立ち上げなどに従事。下岡とはお互いの近況を定期的に報告し合いながら起業のタイミングを待った。

「最初は本当に飲みの席でのノリだった。じゃあ一緒にやる? という感じ。お互い当時はまだ東京で働いていたので、初めての会議は吉祥寺の沖縄料理店で。そこからスタートし、話し合いを重ねた」(中野)

 話し合うなかで出たアイデアのうちのいくつかは、実際にプロダクトを作って検証やテスト運営もおこなった。海外での経験から着想を得て外国人向けのサービスをつくった時は、2人で表参道に出向き道を歩く外国人に「このサービスをどう思う?」と街頭インタビューするなど試行錯誤も経験した。

 クアンドは現在、北九州のオールド産業に対して、ディープラーニング(深層学習)やビッグデータなどを用いたサービスを開発・提供している。「産業をアップデートさせる」という企業理念は、2人が実際に地元企業を駆け回り産業の現場の声を聞いていくなかで浮かび上がったものだ。単に新しい技術を開発し導入を提案するのではない。現場で起きている問題を見極めた上で必要な技術やサービスを考案し提案していくという、コンサルティング的な視点を併せ持つ事業だ。

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