ノフさんが来日で最も感動したのは「日本食の美しさと、自然との調和」だという。

「訪問先の新潟の料亭では、赤い実のついた木の枝が箸置きに使われていて、感激しました。『菊のおひたし』にもびっくりした。イスラエルではそういうふうに花を食べることはあまりないんです。今回のコラボで花を食材に使ったのはその影響です」

 イスラエル料理と日本食には共通点も多い。新潟に同行し、2人とトークショーも行ったニューヨークの名店「ジャン・ジョルジュ」出身の米澤文雄シェフ(38)は、ニューヨークで中東フードをよく口にしたという。

「アラブ系、ユダヤ系ともに宗教的に豚肉を食さないため、調味料にもバターや動物由来のソースなどがあまり使われずヘルシーです。レモンなど柑橘(かんきつ)系の酸味がよく使われる点も和食と似ています」

 近年は菜食の一種、ビーガンフードとしても人気が高まっている。2人とコラボした谷シェフはコスメや美容関連の仕事を通してイスラエル料理と出合ったと話す。

「イスラエル料理は野菜や植物性の素材を多く使い、あっさりしていて胃にもたれない。味付けも比較的軽いので、和食との共通点は多いと感じますね」

 今回、2人の来日には「日本酒との出合い」という目的もある。イスラム教で飲酒はご法度だが、ユダヤ教では「コーシャ認証」された酒を飲むことができる。コーシャとはイスラム教の「ハラールフード」と同じく、食べてよい「清浄な食品」に与えられるお墨付きだ。

「八海山」ブランドを有する八海醸造は、今年4月に9銘柄の日本酒で「コーシャ認証」を取得した。八海醸造営業部の笹川伸介さん(40)は経緯を話す。

「弊社では1991年から海外向けの輸出を始め、現在生産量の約6パーセントを海外26カ国に輸出しています。今後イスラエルはもちろん、世界のユダヤ人マーケットに日本酒を届けたい、との思いで認証取得に向けて動きました」

 コーシャ認証を受けるには原材料や添加物、製造プロセスや保管設備まで、ラビ(聖職者)による厳正な審査に合格しなければならない。素材がどこからきたのかを明らかにするトレーサビリティーにもなり、品質保証の証しになる。女性シェフ2人は来日中、新潟県南魚沼市にある八海醸造の蔵元を見学した。ヒラさんは言う。

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