広島店のサイクルコーナーに勤める瀧川博幸さん(67)はスポーツタイプの自転車専門店に28年勤めた後、48歳のとき入社した。多くの人が行き交う場所で、自転車の魅力をより広めたい思いがあったからだ。瀧川さんは熱く語る。

「モノを売っているのではないんです。その先にあるものを届けるため自転車を売っている」

 サイクリングのイベントを定期的に開き、乗り方や楽しみ方も教えている。そこで若者たちの人生相談を受けることも多いという。

「いまの若い人たちは大人との接点が少ないでしょう? 趣味を通じて色々な人がつながり合うことが大事なんです」

 10年単位でものを考え、60代では自転車の楽しさをもっと伝えられているものと思っていた。

「まだまだ足りない。70代でどうすればいいかを考えています。ハンズは人生を楽しむためのストアですから」

 何歳になっても夢や思いを持って仕事ができるのは最高だ。話を聞いていると心がポカポカしてくる。この「幸福感」はどこから来るのか。リクルートワークス研究所の大久保幸夫所長は、ポイントは“コンサルティングセールス”にあるという。

「シニアになると、自分が長年してきたことを肯定したい気持ちと、忙しさのなか置き去りにしてきた趣味への興味がよみがえる。加えて『だれかの役に立ちたい』思いも定年後は強まる。東急ハンズではそれらがうまく生かされているのです」

 そういえば。先の瀧川さんはこうも語っていた。

「その人の生活や人生が聞けると、ベストの自転車を薦められる」

 人生は深くて長い。達人たちから学ぶことはまだまだある。(編集部・石田かおる)

AERA 2018年11月19日号