ところが、実はそのとき、FB社内の一部は大変な騒ぎになっていた。それが分かるのは、数日後のことだった。

 FB社は、ザッカーバーグのスピーチ前日の25日夜、同社の看板の交流サイト「フェイスブック(FB)」にソフトの欠陥があり、外部のハッカーからの攻撃で大量の個人情報が流出していたことを検知していたのである。

●米議会で責め立てられて、全力を挙げると表明したが

 FB社をめぐっては今春、2016年の米大統領選の際に、英選挙コンサルティング会社「ケンブリッジ・アナリティカ」に最大8700万人分の個人情報が流出していたことが明らかになっていた。これらの個人情報は、トランプ陣営の選挙戦略に役立ったとされ、大統領選の結果を左右したともいわれる。今年4月、米議会で議員から厳しく責め立てられたザッカーバーグは、冒頭のプレゼンとはうってかわり、スーツ姿でかしこまっていた。

 このときザッカーバーグは個人情報保護に全力を挙げる考えを表明していただけに、新たな個人情報流出がFB社だけでなく、ザッカーバーグ個人にも大きな痛手となるのは明らかだった。

 これが社内で発覚した25日以後の3日間、FB社は、個人情報流出を食い止める対策に奔走する。27日夜までにソフトの欠陥を修復し、個人情報流出の規模を調べ、米連邦捜査局(FBI)や欧州当局に通報する作業を同時並行で進めていたのだ。

 まさに現場が火事場のような騒ぎになっていた26日、ザッカーバーグは、そんなそぶりも見せずに登壇し、VRの新製品の素晴らしさだけを訴えて、ステージを後にしていたのだった。

 そして、28日朝、FB社は米国太平洋時間の午前9時41分、私たち記者に突然、「10時から電話会見を行う」と通告する。会見の冒頭で、ザッカーバーグは「非常に深刻に受け止めている」と説明。自信に満ちていた2日前の様子とは異なり、事態の重みは、声の調子からも伝わってきた。

 そもそも、今回の個人情報流出問題とはどういうことなのか。

 ソフトの欠陥があったのは、FB上で、自分の「プロフィル情報」を、他人が閲覧しようとしたときに、外部からどう見えるのかを利用者が確認できる「プレビュー」(英語では「ビュー・アズ」)の機能の部分だった。

 昨年7月にFB社が動画の関連機能を加えたところ、「プレビュー」の閲覧の際に、いくつかの欠陥が連鎖的に作用する現象が発生していたのだという。こうした欠陥が重なることで、本人がFBへのログイン状態を保つためのソフト内のデジタル上の鍵「アクセス・トークン」を、ハッカーが盗める状態になっていたのだ。

 盗まれていたトークンの数は9月28日時点で「約5千万人分」と説明されていた。それが10月12日には、約3千万人分へと下方修正された。

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