乗っ取りにつながるデジタルの鍵の盗難、それを悪用して盗まれた大量の詳細な個人情報──。話を聞くだけでもなんとも居心地が悪い。

 9月28日。ザッカーバーグが出席した電話会見では、記者からの厳しい質問が何度も飛んだ。

記者:(4月に)米議会で証言したときに、あなたは、「利用者のデータに責任を持てないのなら、サービスを提供する資格がない」と言っていた。これだけ大きい問題を起こして、今後も(サービスの提供を)できるのか?

ザッカーバーグ:これは本当に深刻なセキュリティーの問題だと思っている。本当に深刻に受け止めている。今回の事象は、今後もセキュリティーに重点的に投資していく必要性を示すものだ。

 ザッカーバーグ自身が、米議員や米社会の前で大見えを切ったことが、さらなる批判を招いている形だ。

 ただ、FB社は、安全対策にいまかなりの経営資源を割いている。24時間体制で世界の50の言語に対応し、担当する人員も従来の倍以上の2万人超に増やしている。

●欧州連合はすでに規制強化

 多大な費用は業績に直接影響しそうだ。7月25日発表の今年4~6月期決算では、売上高と純利益は過去最高を記録したものの、今後は安全対策費で営業利益率が現在の44%から30%台半ばまで落ちる見通しが示された。翌26日の株価は約2割も下落し、時価総額が日本円換算で13兆円超も吹き飛んだ。それでも同社は、安全対策への重点投資を続ける考えだ。

 FB社を世界有数の企業へと育て上げた創業者ザッカーバーグの自信は、ときに強気のコメントを生み、それが批判を受けることにもつながる。その一方で、強力なリーダーシップがあるからこそ、セキュリティーへの重点投資も続けられる。いわばもろ刃の剣だ。

 批判は、米議会からも高まっている。4月の公聴会で、ザッカーバーグがセキュリティー対策や利用者のプライバシー保護を約束していたにもかかわらず、それが果たされていないことに米議員たちはいらだっている。

 欧州連合(EU)は、FB社を含む、グーグル、アップルなど米IT大手を念頭に、利用者のプライバシー保護を大幅に強める「一般データ保護規則(GDPR)」をすでに5月から施行している。

 米国でも、欧州同様に、規制を強化する方向で議会審議が続いている。法案が具体化するのは来年にかけてになりそうだが、民主党議員らは厳しい規制を求めており、予断を許さない。

 日本でも10月から、FB社やグーグルなどの米IT大手に対し、プライバシー保護の観点から規制強化するかどうかを考える議論が、総務省の有識者研究会で始まった。

 ザッカーバーグ同様、大変な自信家だったジョブズは1980年代にアップルを追放される憂き目にあったあと復活。消費者が求める製品を徹底的に追求し、iPhoneを生み出した。ザッカーバーグはその自信を、利用者が望む真の「安全性」に本当に注ぎ込むことができるのか。正念場はこれからだろう。(文中敬称略)(朝日新聞記者・尾形聡彦)

※AERA 2018年11月5日号