今年4月、米議会の公聴会で、ザッカーバーグは「起きたことの責任は私にある」と謝罪し、利用者のプライバシー保護に全力を挙げることを約束したばかりだった (c)朝日新聞社
今年4月、米議会の公聴会で、ザッカーバーグは「起きたことの責任は私にある」と謝罪し、利用者のプライバシー保護に全力を挙げることを約束したばかりだった (c)朝日新聞社
9月26日、サンノゼ市のイベントでVRの新製品を宣伝するザッカーバーグ。大量の個人情報流出を明かしたのは、この2日後だった (c)朝日新聞社
9月26日、サンノゼ市のイベントでVRの新製品を宣伝するザッカーバーグ。大量の個人情報流出を明かしたのは、この2日後だった (c)朝日新聞社
個人情報が盗まれた!(AERA 2018年11月5日号より)
個人情報が盗まれた!(AERA 2018年11月5日号より)

 ハーバード大学時代に作ったフェイスブックはSNS界の巨人になった。その世界的な交流サイトで、大量の個人情報が盗まれる失態が起きた。創業者の「自信」は解決をもたらすのか。過信なのか。

【図】いったい、どれだけの被害があったのか…

*  *  *

 9月26日、米シリコンバレーの中心部に位置するサンノゼ市のコンベンションセンターの聴衆は、フェイスブック(FB社)の創業者であり、最高経営責任者(CEO)を務めるマーク・ザッカーバーグ(34)を待っていた。

 この日開かれていたのは、FB社が傘下に収める仮想現実(VR)の端末を開発する子会社「オキュラス」の新製品を発表するイベントだ。ただ会社側は登壇者について、事前に一切明かそうとしなかった。

 VRに力をいれるザッカーバーグが登場するに違いない、と会場の大勢と同様に私も思いつつ、暗がりの中でイベントスタートを待った。

 午前9時、スポットライトを浴びて舞台の中央に進み出たのは、やはりザッカーバーグその人だった。

 私には、この日のザッカーバーグはひときわ饒舌(じょうぜつ)に思えた。紺色の上着の袖をまくり上げ、新製品「クエスト」の素晴らしさを次々とアピールしていく。途中、ハプニングで音声が途切れ、数秒後に復活すると、「まず第一の課題は、マイクロホンが動くようにすることだね」と即興でジョークを言い、会場を沸かせる余裕もあった。

 プレゼンテーションから伝わってくるのは、まだ34歳ながら、全世界で22億人の利用者を誇るソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の巨人を作り上げた強烈な自信だ。彼はスピーチで、とにかく自分が訴えたいメッセージを次々と発信していく。

 若きCEOの言葉を聞きながら、ふと別のカリスマの姿が頭をよぎった。

 14年前、その会場から1ブロックほどしか離れていないサンノゼ市内の劇場で取材した、アップルCEOのスティーブ・ジョブズだ。

 プレゼンの名人として知られるジョブズだが、実際に現場で聞く彼のスピーチには、張り詰めた緊張感がある。そのなかでジョブズは、独特の甲高い声で、一つひとつ言葉を選びながら語っていく。会場の感触を確かめながら、聴衆と対話するようにプレゼンを進めるのがジョブズの手法だ。だからこそ、聴衆の気持ちをつかんだ言葉をジョブズが口にしたとき、会場がどっと沸いた。

 それに比べると、ザッカーバーグは、聴衆の反応をそれほど待たずに自信満々で突き進んでいく──。壇上には、確信に満ちたザッカーバーグがいた。

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