「腰を壊して、障害者全般の就労支援施設に通ったり、その後は倉庫会社で仕事を得たりしましたが、やはり足腰に負担が大きく続けるのが難しかった。ろう難聴専門の就労支援センターは、母が見つけてきてくれて、2月に開所して私が第1号で入りました。体に無理のない軽作業で長く働ける仕事を見つけたいので、ワードとエクセルを一生懸命勉強しています」

 同センター理事長の前田浩さん(65)は自らも聴覚障害者だ。長年教員として勤めた大阪府立中央聴覚支援学校(旧大阪市立聾(ろう)学校)をこの春に退職し、就労移行支援事業に絞ったセンターを立ち上げた。

 教員時代も、「てにをは」を耳から自然に覚えられず、助詞の習得に苦労する難聴者のために、イラストを多用した国語学習ドリル『みるみる日本ご~みるくとくるみの大ぼうけん~』を出版。さらに、全国約40人のろうの教諭に呼びかけ、自分たちの体験をもとに、病院や買い物のやりとり、事故や災害時など、ろう者に身近な108項目の対処法を考えながら探っていく『365日のワークシート』を出版するなど、踏み込んだろう教育を展開してきた。就労支援はそんな前田さんの新たな取り組みだ。

「毎年、聴覚支援学校からろう難聴の卒業生が巣立ち、雇用率こそ障害種別の中では高いのですが、せっかく採用された企業での定着率が良好とは言えない現状があります」

 前田さんは、受け入れる職場とろう難聴者側の両方に原因があると考えている。

「先行研究のほとんどが、ろう者の離職率、転職率の高さを指摘し、原因として職場におけるコミュニケーションの難しさを挙げている。受け入れ側の無理解という職場環境に問題がある一方で、ろう難聴者側も自分が求める配慮をうまく説明できないために、会社側の理解が得られにくい状況を作り出しているケースも多く見られます」

 こうした背景もあり、新島さんのように就職しても離職、転職を繰り返すろう者は後を絶たない。個別に事情は異なるものの、企業側が求める能力や知識と、ろう難聴者の現状理解と、個人の能力や知識とのギャップを埋めることが重要だ。(編集部・大平誠)

AERA 2018年10月1日号より抜粋