……なーんて偉そうなこと言っとりますが、23年前に阪神大震災に遭遇した時はそんなこと考えもしなかった。そもそも近所に知り合いゼロ。私と世をつなぐ唯一の回路は「会社」で、電車の不通区間を何時間も歩いて会社にたどり着き、弁当を食べさせてもらって生きながらえたんだから大きなことは言えません。

 でも今は違います。何しろ家が小さいので近所のお店が我が冷蔵庫であり風呂であり仕事部屋。つまりは普段から人様に助けられ生きながらえているのです。

 で、先日もそのお店で豆腐を買ったら、店のオトーサンがふとこんなことを言いました。いつも来てくれてありがとうね。商売人はそういうこと忘れないからね。うちの娘にもね、普段はスーパーで買い物したらいいけど週に1回は近所のお店で買い物しなさいって言ってるの。そうしたらきっといざという時に助けてくれるからって。何か起きた時だけ「絆」とか言ったってダメだよ。絆は普段から作らなきゃ……。

 なるほど世の中は持ちつ持たれつ。それは災害時も平常時も同じこと。災害に備えることは、普段の暮らしを豊かにする行為でもあるのです。

AERA 2018年9月24日号

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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